g.short
愛が殺された (土方)
「結婚、決まるかもしれない」
「ヘェ。良かったな。‥誰の?」
あたしより煙草の方が好きな貴方。
「あたし」
「誰と?」
「先月無理矢理お見合いさせられた人」
「あー‥あったなぁ、そんな話」
「覚えててくれたの?奇跡かも」
仕事以外にも一応脳みそ機能するんだ。安心した。
「たまにはな。
つか、お前の態度がすごく悪かったから絶対断られるって言ってたろ」
「ほんと、物好きもいたもんよね」
あたしにお見合いをする気なんかなかったから、強引な親が腹立たしくて酷い態度で目茶苦茶にしてやったんだ。
それなのに、先方からきたのは「ぜひ」という返事だった。
窮地に立たされたのはあたし。
親は「こんな娘で良かったら」と泣いて喜んでいた。
ということはつまり、家柄も地位も仕事もルックスも、全て丸っと申し分ないどころか余りあるほど素晴らしく、性格にいたっては、厭味かと思うほどに今あたしの目の前で淡々と煙草をふかす目付きの悪いこの男にそっくりだった。
「一目惚れだったんだって」
「ハッ馬鹿言うな」
「まぁそれはね。建前だったって言われたよ」
「言われたのか。シメるか、そいつ」
「なんでトシが怒るのよ。馬鹿言うなとか言ったくせに」
「俺は良いんだ。
その野郎にはお前をけなす権利はねぇ」
「‥‥俺様‥。
建前だったって言われたの。本当はあたしの演技も見抜かれてたってわけ。退屈なお嬢様かと思ってたら、とんだ演技派美人だったって笑われたわ」
「そんで?」
「結婚してくださいって。
あたしと結婚しなくても、彼はどのみちお見合いで良家のお嬢様と結婚させられるんだって。
あたしとは、例えお見合いをしてなくても、出会ったならすぐ好きになったと思う。だから、とかなんとか」
「殺し文句だな」
「そうね」
「結婚するのか」
「‥‥‥‥‥」
「良かったな」
「殺し文句、言ってくれないんだ」
「言えるか馬鹿」
「‥そうだよね」
「俺には、何も言えねぇ。
お前が俺の生きている間、この世のどこかでよろしくやってりゃ十分だ」
「言えるじゃん‥殺し、文句‥」
こんなもん殺し文句とは言わねぇ?
殺し文句だよ。
まさに今、あたしの恋も、あたし達の愛も、殺された。
「その野郎はどんな野郎だ」
「‥見た目は爽やかで、有能優秀、煙草も吸わない」
「ヘェ」
「でも、中身は‥トシにそっくり」
「‥‥‥‥」
「ちょっとは嫉妬してくれた?」
「‥‥今さら遅ェよ」
あたし達の愛に、花を捧げよう
どうか安らかに眠って
.
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!