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g.short
見よ、この世界を (沖田)
「おい、コーラ買ってこいよ」

彼との出会いは1本のコーラから始まった。





「‥‥ん‥そうご‥?」

「‥あ?やっと起きやしたか」

目が覚めると病室にさっきはいなかったはずの総悟がいた。
総悟は椅子に座ってよだれ垂らしながら寝てたみたいなのに、一瞬で覚醒する。ふああ、と欠伸を一つすればいつもの総悟と変わらない。
こういう時、この人が新選組の一員だということを信じてしまう。

「またお休みなの?お仕事」

「世間は平和過ぎて平和ボケしてやがる。俺の仕事はありやせん」

「またサボったのね‥。
土方さんって人にまた怒られるんじゃない?」

「あんな野郎怖くねーでさァ」

総悟は、私達が出会ったきっかけになった怪我が治った後も、私に会いに病院に来てくれる。
いつも近くに来たからとか暇過ぎてとか素直じゃないことばかり言うけど。
頻繁に来るから、最初は学生さんだと思っていたのに、新選組の隊員だと言われて驚いた。
そう言われて見れば、制服ではないものの彼はいつも腰に刀を差していて。

総悟と刀。

不釣り合いなようにも見えるし、とても馴染んでいるような気もした。


「お前、こんなとこによく何年も住めるな」

「住みたくて住んでる訳じゃないわ」

「嘘つけ」

びっくりした。
総悟の眼は、言い訳もごまかしも許さない強いものだったから。

「総悟には‥わかっちゃうのね。
‥‥エネルギーが、無いのよ。
生きたいっていう、生物としてのエネルギーが。
それがあったところで、簡単に治るような病でもないけれど」

「悲劇のヒロイン気取ってこん中で独り淋しく人生終えて満足かィ」

「世の中には美しいものがたくさんある。
幸せだって。
生きてさえいれば、この人とずっと一緒にいたい、結婚したいって思える人と出会えるはずだとも思うの。でも‥」

「‥‥情けねェ」

総悟は椅子から立ち上がり、
振り返ることなく病室から去って行った。


彼の背中がドアの向こうに消えた後になって、ベッド脇の棚の上に、1本の枝が一輪挿しに刺さっているのに気がついた。
今は冬真っ只中。雪がちらつく季節。
花が咲いているものでもないし、青々ともしていなかった。
ただ、筋張った枝に、緑の葉と真っ赤な小さい実がたくさんついていた。

幼い頃から病室と家の中しか知らない私には、何ていう実なのかも、どこで採れるのかもわからない。





それから、
総悟は来なくなった。








「では。行きましょうか」

「はい」

看護師さんに押されてベッドがカラカラと音を立て始めた。

私は今日、手術を受ける。


外で生きたいとか、死にたくないとか、大袈裟なことを思った訳じゃなかった。

ある人から渡すように頼まれたと、ちょうど手術に必要なだけのお金を万事屋と名乗る人が持って来たからでもなかった。


散々考えた。


このまま、ここで死んでも構わなかった。

だけど、せっかく生まれてきたのだ。この世界の美しいものを、自分の足で探しに行ってみようかと思えた。

それから、
こっそりでいいから、彼が仕事をしているところを見てみたい。


そう、思ったんだ。


『望め』と言われた気がしたんだ。

















「‥‥‥‥‥」

白い天井。
体が重い。

成功したのか。

天国の天井が病院の白い天井と同じ作りでなければ‥だけど。


ああ、これで私は外の世界に旅立てるのか。

嘘みたいだ。


もう一度、眠りにつこうとしたその時、ふわりと甘い香りがした。

「‥‥そう‥ご」

ベッドの端に頭を乗せて眠るのは、やっぱり総悟だった。
少し身じろいだ総悟はいつものように起き上がり欠伸を一つ。

「‥あ」

起き上がる時に白いものが総悟の頭から布団に落ちた。

「ん?ああ、花か」

「花‥?」

あれでィ。と総悟の視線を追えば、一輪挿しには1本の枝。
白っぽい小さな花がたくさんついていて、とても良い香りがした。

「今日はお仕事だったのね」

初めて見る制服姿。

「かったりィから抜けてきやした」

嘘ばっかり。

「私、総悟が真面目に仕事してる姿、見てみたい」

「俺は毎日真面目に仕事してやすぜ」

「それから、‥きっと今年は間に合わないかもしれないけど、この花が咲いているところも」


全部、あなたがくれたきっかけだった。


「退院はいつなんでィ」

「そんなにすぐに決まらないし、すぐには無理よ」

「へェ」

「ありがとう。総悟。
今まで会いに来てくれて」

何故か、私はこれが総悟とのお別れな気がしていた。
羽根と未来を手に入れた私がこれ以上何を望めるというのだ。
願い事は例え魔法のランプがあったって3つまでなのに。

「お前がこの世に飽きるまで、俺は付き纏うつもりなんで」

「え‥?」

「とりあえず、退院の日、迎えにきやす。逃げようなんて思うなよ」

「‥‥総悟‥
‥ありがとう‥‥」




神様。
もうひとつだけ願いを叶えてくれますか?


「私、総悟と一緒に、生きていきたいよ」



いつも、私に世界を見せてくれた。




きっと、
世界は美しいから。

あなたのそばで。

ずっと。



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