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嬉しい日 (山崎)
なんと3日も遅れて。
おめでとうもなにもあったもんじゃない。

しかも。夜中の3時にメール。

優しいんだか自分勝手なんだかわかんない。


『遅くなってごめんね。
誕生日、おめでとう』


仕事だとは知っていた。
あたしなんかにメールするヒマがないように忙しいことも。
少しでも気が緩めば、死と隣り合わせの危険な仕事だってことも。


『ありがとう』


『今起きてるの?』


『退のメールで起こされた』


『え、うそ、ごめん!』


『嘘よ。起きてた』


途切れ途切れの短いやり取り。

寝たことにして返すの明日にしようかな、と。思うけれど、結局あたしは返事を打つ。

メールは苦手なんだ。

思ってること、メールなんかで伝えられないから。

返事なんかいつでも良い。気にしない。って思いながら、ちらちらとあたしの目線は落ち着きがなくて。


ピリリ、と予想に反する音が部屋に響いた。


着信。山崎 退。


少し息を整えて。それから少しだけ、もったいぶって。

悔しいじゃない、飛び付くのは。

あたし、電話は苦手なの。

言いたいこと、なんにも言えないから。



「はい。退?」

『夢乃、おめでとう。誕生日、遅くなっちゃったけど』

「‥ありがとう。
退、仕事一段落したの?」

『うん、今さっき報告終わって。やっとね』

「お疲れ様」

『ごめんね、本当は当日にメールくらいしたかったんだ』


退と出会ってから。
あたしの誕生日にはいつも退がいた。2人きりで甘い恋人みたいに過ごしてきたわけじゃないけれど。

みんなと一緒だって。ほんの一瞬だって。

退が祝ってくれない誕生日なんてなかったんだ。


「気にしないで。
知ってるでしょ、あたしは自分の誕生日がそんなに好きじゃないって」

『今年は誰が祝ってくれた?』

「家族と、新しい職場の同僚」

『良かったね』


退が連絡くれなかった3日間。
あたしはずっと考えてたことがある。


「今年は、なんの実感もなかったの。なんでみんな、1つ歳を取るだけのイベントに浮かれられるの?って思っちゃった。
そんなあたしでも、去年までは、誕生日が楽しみだったし、あたしなりには浮かれてた」

『‥大人になったってこと?』

「違うよ。
ちゃんとはわかんないけどね、
あたしは思ったの。
退ってさ、本人のあたしなんかより嬉しそうにしてたし、楽しんでたよね。
そんな退見てたら、自然とそういうものなんだってあたしも楽しめてた」

『え。俺、夢乃より楽しんでた!?』

「うん。
退見てたら、誕生日ってものすごくおめでたい日なのかもしれないって洗脳されるくらいね」

『ご、ごめん‥』

「ううん、感謝してるの。
ありがとう退。
少なくとも、今までは、
退が誕生日の実感を運んできてくれてたの。それが、わかった」

『俺がいないと、実感がないって‥誕生日が楽しくないってこと?』

「‥そうだね」

『俺もね、早くおめでとうって言わなきゃって焦りながら考えたんだ。
一番最初に言いたかった、とか、誰に祝ってもらってるんだろう、とか。仕事中ももやもやとね。
なんでだろう?って、考えた』

「うん」

『ね、夢乃。明日会える?』

「明日?大丈夫だけど」

『じゃあ、改めて夢乃の誕生日会しようよ』

「祝ってくれるの?仕事明けなのに?」

『俺で良ければ、だけど。
俺が仕事中もやもや考えた結果、聞いてほしいことがあるんだ』





退からの連絡が望めなかった誕生日の日付になる瞬間よりも。
明日を待ち望むあたしは。
嬉しくてわくわくして、少し緊張している。

あたしは誕生日なんかで浮かれない。

だけど、退が祝ってくれるから。

退と出会えたから。

あたしは生まれてきて良かったと心から嬉しく思う。





明日は、メールでもなく電話でもなく。しっかり向かい合って。
「退が好き」って、伝えたい。




***

投下し忘れてたハナシでした。
年の最後にそーご君のダークなお話というのもどうかと思いましたので(^-^;

今年はなんやかんやと時間が取れなかった中で、とりあえずこのサイトが続いたことに自分でも驚いております。
来年はもうちょっとなんとか出来たらいいな。という非常に曖昧な抱負を述べてみたり。

今年はぐだぐだな当サイトとお付き合い下さり有難うございました。
2010年もどうぞよろしくお願い致しますm(__)m

2009年末日.風音.

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あきゅろす。
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