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特別 (坂田)
「あら、銀さん、
お久しぶりですね」

「最近銀さん珍しく忙しかったからね。
仕事のおかげで疲れてるけどお金はあるし、今日はたくさん癒されちゃうよ?」

「まぁ、嬉しいわ」


適度なスキンシップ。
適度な距離感。

今、私は仕事中。

ビジネスなの。働いて、お金をもらう。
男の人がお酒を飲むのに付き合ってお金をもらう、サービス業。


私の笑顔は業務用。私の言葉も業務用。

この商売が成り立つのは、そのことをお互いどこかで理解しているからだろうね。

ときどき、勘違いして本気になっちゃうお客さんもいるけど、目の前のこの人は違う。
なかなか本気になってくれない、つれない人。


「お前ちゃんと食ってんの?
また痩せてない?」

「食べてますー。
最近流行ってるヨガ?みたいな変な体操始めたら痩せたのよ」

「え。なにそれ。
ちょっと銀さんに教えてみなさい?いやいや、べつにお腹が気になる訳でもないし、オッサン化に怯えてる訳でもないからね?」

「気にしてない人はそんなこと言いません」

「気に?ならないならない。むしろ俺なんか少し太りたいくらいだしね!
‥で?どうやって痩せたって?」



最初は面白い人だと思った。
お客さんがみんなこんな人だったら良いのに、と思った。



「銀さん、今日は一人なんですか?」

「一人だけど?いつも」

「ほら、よく一緒じゃないですか、お友達」

「あぁ?
‥あー‥真選組の奴ら‥」

「ここで一緒になる度に結局一緒に飲んでいるでしょう?」

「まぁ‥だけど、あんなん全然友達じゃないから。あんな、ゴリラとその仲間達みたいな愉快な友達いないから」

「ふふ。確かに愉快な方達だったわ。
‥‥そういえば、最近銀さんが来てくれない間に何回かいらしたわよ、副長さん」

「まてまてまて。
なんであいつが?」

「知らないわ。
あの副長さんたら、ふらっと一人で来て、特に何も話さずにお酒だけ飲んで帰るのよ。
私が少し話すのをなんとなく聞いているかいないかわからないけど」

「‥あっそ」

「銀さんと一緒に飲みたかったのかしらね」

「げぇ、気持ちわりーこと言うなって」

「だって、ちょっと怒ってるのかしらって思うくらい、黙ってたんだもの。銀さんやお仲間と一緒のときは賑やかなのに。
今では、ああいう人なんだってわかったけれど。最初は恐かったんだから」

「あーゆー奴はねー、気をつけないと恐いよ?ほんとに。
まず常に瞳孔開いちゃってるし、なにより単純だから」

「単純だと悪いの?」

「こういうお店に来るべきじゃないってこと。
あーゆー単純馬鹿は、ビジネスだって割り切れなかったりするんだよ。勘違いして本気になっちゃうタイプ」

「あら、よくわかってるのね」

「は?もしかして、もう口説かれちゃったりしちゃったとか?」

「さあ‥どうかしら?」

「やだねー、手の早い男は」

「手の遅い男も嫌だわ。
女性を待たせ過ぎるのはダメ」

「‥‥‥」

「銀さんは、そんなこと、ないでしょう?
女性のサイン、気がつく人だもの。ね?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

「いつまでも気づかないふりをするなら、女性は他の人のところへ行ってしまうわ。例えば、手の早い男性のところへ、ね」

「‥‥これだから、女って奴は怖い怖い‥」


観念しました。と銀さんは手を上げた。


「白状します。あなたにすっかり参っちゃってるどーしよーもない男ですが、どうか俺の側で、
素顔のあなたを見せてください」

「ええ、喜んで」




(店、辞めてくれんの?)

(どうしようかしら)

(えぇ!?)

(だってビジネスだもの)

(いやいやいや、ビジネスって割り切れてないからね?現にあなた俺と出会っちゃってるからね?)

(冗談よ。辞めるわ、もちろん)



貴方だけが、特別だったのよ。

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