ff ささやかな願い (z、r) <クラウド最近見た?> 仕事中‥なんだけど、どうしても気になってザックスにメールを入れた。 <俺、今ミッション中!> <知ってる。 だからメールにしたんじゃない。あとででも構わないようにって> <お前からのメールにはほとんどいつもオンタイムで返してるだろ? お前の返信はいっつも遅いけどな。 俺はたとえ戦闘中だろうとメールするのに> <今戦闘中な訳?> <まあ、ザコだけど。中ボスレベル?弱い割に体力あるらしく長期戦> <戦闘中にメールするような馬鹿はザックスくらいです。そもそもタークスとソルジャーの常識を一緒だと思わないでいただきたいのですが> <え?レノも今メールしてるぜ?> は?と思わず声に出しそうになったが、手元が光り、届いた新着メールに今度は呆れて反応するのが馬鹿らしくなった。 その話題の人、レノからである。 <俺もお前からのメールなら速攻返すぜ!戦闘中だらうが潜入中だろうがな!だから俺のとこにもメールしてくれよ。寂しいだろ、と。ザックスばっかズリい> あの馬鹿二人はミッションをなんだと思ってるのか。 私はすばやく電話帳からレノを開き、通話ボタンを押した。 『もしもし?ケリー?電話くれるなんて嬉しいぞ、と』 「なんで戦闘中に普通に電話出るの!」 『そりゃお前からの電話なら‥』 「どうせ代わりにルードが必死になって戦ってるんでしょう?」 『さすがケリーだな!ルードのやつ、さっきから敵の数減らねーんで頑張ってるぞ』 「‥ルード‥複数相手に‥。 いい?よく聞きなさい。 ミッションくらいは真面目にしろ!ルードが大変でしょう!? 目の前の敵全部残らず倒して、ルードが一息つけるようになるまでメールも電話も禁止!!ザックスにも伝えて!以上」 携帯を置き、再びデスクワークに戻ろうと椅子を引いた。 でも、なかなか集中出来ない。どうしても考えてしまうんだ。クラウドのこと。 クラウドに最後に会ったのは、ソルジャー試験が始まる2日前。頑張るよ、と意気込んでいたのを覚えている。 今日はもうソルジャー試験が終わって3週間は過ぎている。通知もとっくに出てるだろう。 クラウドの結果は、不合格だった。 いいところまでいったという言い方もできる結果ではあったけれど、不合格には違いなかった。 こういう時、私はかけるべき言葉がわからない。だから、少し距離を取った。すぐにまた元のように戻れるだろうと思って。 でも、クラウドとは何故か全く会えなくなって(以前はクラウドが本社警備のときはお昼を一緒に食べていた)、ザックスもそうだという。連絡ひとつない。 試験で入院沙汰になる重傷を負った受験者がいたっていう話もない(多少の負傷のケースは何件か報告があったが、クラウドのデータにはそんな記載はなかった)。タークスやソルジャーじゃあるまいし超極秘ミッションに参加している訳でもないだろうし。 私はとにかくクラウドに一目会って安心したいのだ。 <レノ:終わったぞ、と。> <ザックス:ミッション終了ー!> 携帯が光って着信を告げた。2人にお疲れ様、と返す。よく見れば、さっき電話を切ってからほんの数分しか経ってない。 ちゃんとやれば早いのに、と再び呆れてしまう。ルードもさぞ苦労がいっぱいだろう。 <ザックス:これから移動してもう一個ミッションあっから、2,3日は帰れないけど、出来る限り早く終わらす!そしたら一緒にクラウドんとこ行こうぜ。 だから心配すんな> ザックスのメールで、少しだけホッとした。 2人で行けば、大丈夫だよね? 私一人では絶対行けないと思っていた。 試験に落ちてショックを受けていたら、私はかける言葉を持っていない。 私は、挫折とは無縁の人生を歩んできている。幼い頃からの英才教育。タークスのスカウト。エリートばかりの養成所では女ながらにAクラスまで登りつめ、タークスへの優待。女であることを理由に、父が望んでいたソルジャーにはなれなかったけれど、私は別にソルジャーになりたいわけではなかったから、一般的な挫折とは違うだろう。一般兵から見れば十分エリート、と言われてしかたない。そんな私みたいな人間の言葉はきっと今のクラウドには届かない。 たとえ、この地獄のようなエリート人生を私が望んでいたわけじゃなくとも。 たとえ、クラウドが私の素性を知らなくとも。 こんなときだからこそ、一般社員になりすましてテキトーな言葉でなぐさめるような、そんなことはしちゃいけない気がした。 つくづく、思い知る。私とクラウドが身を置く世界の違いを。 もし、クラウドもザックスも、レノもセフィロスも、みんなが対等で平和な世界に生まれていたら、どんなに良かっただろう、と馬鹿なことを考えたとき。 もう一度光った携帯に意識を戻された。 <ルード:ありがとう。助かった。今度一杯奢る> この世界だから、私はみんなに会えたのだ。 この世界だから、こうして支えあって生きている。 もしも、なんて考えるのは情けないな。 この世界じゃなきゃ、意味がないんだから。 あ、でも、 <ケリー:ルード、お疲れ様。「もし」別の世界に生まれ変わったときは、一番最初にルードを探すよ> <ルード:なんだかよくわからないが、喜んでおく> この世界で幸せになりたい、なんて多くは望まないから。 みんながいてくれるだけでいい。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |