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善人と罪人 (Z)


「それでは、また。
母さん、体に気をつけてください。父さんも、仕事し過ぎないで休んでくださいね。
それから、ジュノンにいらっしゃる時は連絡ください。私も、ジュノンにいるかもしれませんから」












『絶賛長期休暇中のケリーさん、ミッドガルに帰ってきたら連絡して。仕事に追われてる可哀相なザックス君の気晴らしに飲みに行こうぜ』



タークスに所属して初めての長期休暇。
その3日目に、ザックスからメールがあった。

本当に、過保護というか‥。
いい奴だな、と思う。

それと同時に心配されているってことを実感してしまって苦笑が漏れる。


『もう帰ってるよ』













「もっとゆっくりしてくんのかと思ったのに。
せっかくのコスタ・デル・ソル滞在だろ?
いいよなぁ、あんな楽園が実家なんて。プライベートビーチがあるってホント?」

「みんな楽園って言うけど、生まれ育てば何とも思わないって。
ビーチだって。暑いだけだし、砂ばっか。
時々懐かしくなる程度よ」

「俺も、飽きるほどビーチでのんびりしたいなー」

「ふーん。
ザックスもリゾートには興味あるんだ」

「当たり前だろ!
リゾート!海!水着のカワイイ女の子達!」

「あー‥そっちね」

バカにすんなよな!水着ギャルは全ての男の夢なんだからな!と力説し始めるバカ。

頼んだビールが来て、軽く打ち合わせて。最初の一口はやっぱり美味しい。

「一週間だっけ?
初めての休暇でせっかく久々に故郷帰れるのに、2日で戻ってくるなんて信じらんねー。
明日から休暇返上して仕事するなんて言わねーよな?」

「まさか。
ていうか、ザックスには言われたくないんだけど。休みがいくらあったって帰らないくせに」

私は、怖かった。
あれ以上はいられなかった。
私はもう、住む世界が違ってしまったから。
別人になったような私を知られたくなくて。彼らの自慢の一人娘のままでありたくて。
だから、あまり会わない方がいいと思った。

ザックスだって。
多分私と似たようなものだろう。

「すいませーん、サラダとカルパッチョお願いしまーす」

まずは野菜補給だな、なんて話題をごまかした気らしい。
まあいいけど。

「‥で?親父さん、納得してくれたのか?」

ゴト、とジョッキを置き、ザックスは(恐らく)今日の本題に入った。

「それに関しては問題無いよ。
私はセフィロスの秘書扱いになったから」

「‥はぁ?」

「表向きには、ね。
身内がいくら神羅関係者でも、基本的には秘密、でしょ?
それがタークスなんだから。主任もそれが良いだろうって」

「でも、関係者ったって、福祉事業部のトップだろ?
わざわざ隠したって‥」

「父さん、ミッドガルにはほとんど来ないし、来たってジュノンでしょ。福祉部はコスタに隔離されてるようなもんだし、気付くわけない。
それに、あの父さんだもん。疑うわけないよ」


理想だけで生きている人。
人のために。世界のために。
父さんの目には、世界はシミ一つないくらい綺麗に見えてるのだろう。

神羅には必要な人材。
綺麗ごとを並べる福祉事業部。
つまり、神羅の綺麗なイメージを保つための顔として。
根っからの善人だから、ボロは出ないし、神羅を疑うこともなく信じきっている。

「‥あんな父さんに、タークスだなんて言えないじゃない。
英雄になるはずだったあなたの娘さんは人殺しの『死神』になっちゃいました、なんて」

経緯がどうでも、きっと関係ない。
私は、同僚を、殺した。

ほかに、何か手があったんじゃないか?私は恐ろしい間違いを犯したのではないか?

毎日毎日、考えない日はない。


「そんな風に言うな!
俺達は人間だし、俺は俺で、ケリーはケリー。それだけなんだから」

「‥ありがと」

「ま、同類の俺が言ったって説得力ないけどな」

ザックスは困ったように笑った。『死神』の名は、私だけではない。私と同じ罪を背負う者に与えられるだろう、名なんだ。
たまたま、私だっただけで。

「所詮、私達は人間なんだ。
どう頑張ったって、人間は人間にしかなれないんだもんね」

神にも、死神にも、天使にも、なれないんだから。

「おう、人間らしく、旨いもん食って飲もうぜ。ぱあっとな」



覚悟は決めた。

死神の名は、私が背負う。

選ばれたのが私なら。

私達の罪、私が背負うよ。



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あきゅろす。
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