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アンジール (A、Z)


色とりどりの配線。
無数のコードが束となって挑発してくるかのよう。

恐怖はない。

が、短いとは言えない時間、極度の緊張と集中を余儀なくされているせいで額にも手にも僅かに汗が滲んできている。

―‥一息つこうか。

腕で額を拭い、両手の平はズボンで拭いた。
ついでに肩と首を少し動かしてから、パネルの時間を確認する。

残り、20分弱。


―‥いけるかな。

ううん、いけなきゃ駄目だ。



一つ息を吐いて、再びコードの束と向き合った。


『爆弾処理』

最近では知恵の働くテロリスト集団も多くなったと聞く。

原始的な爆弾から、複雑な時限爆弾まで幅広い処理能力が必要とされるようになった。


しかし、


―‥これは‥キツイな。

初めて見る回線。一本一本の仕組みがなかなか読めない。
マニュアルや教科書通りの作りの爆弾なんて、幻想だった、と。
こうして己の知識の通用しない現実に出会ってから初めて、理解するのだろう。



残り、15分。


箱の中身はますます複雑化していく。

焦っている自分を感じる。
と同時にわくわくし始めた自分も。
手強い、自分の命に関わるリスク。ましてや不利な状況。そんなものにわくわくするなんて、本当に手に負えないなと呆れもするが、まずはこの爆弾と向き合うことが第一。


―‥さて。最後の一騎打ちだ。


工具を握り直した瞬間。
目の前の爆弾が薄れて消えていった。


「残念だったな、サボり指名手配犯」

「‥‥アンジール‥」

トレーニングルームのコントロール室の入口から入ってきたのはソルジャーから派遣されている教官、アンジール。
普段はSクラスしか教えない彼だが、数ヶ月前にS・Aクラス合同授業を受けてからAクラスの私やレノのことも、特Aクラスと名付けて一緒に面倒見てくれている。
特Aはソルジャー候補生用のアンジールの一部の授業をSと一緒に受けられるってだけだけど、私とレノはすごく喜んだ。

彼はアンジール教官、と呼ばれることを嫌がるので、私達は恐れ多くもアンジールと呼んでいるが。
他の教官の誰より気さくな反面、誰よりも逆らってはいけない。
それは十分過ぎるほど学んだ。


「あと7分だったのに」

「全く。
すでに今日4個目って聞いたぞ。授業はどうした。
今のは爆弾処理班の訓練のための新作だろう?
生徒のためのに飽き足らず、か。『ゲーム感覚で手を出されては困る』と担当教官がぼやいていたな」

「あの神経質そうなオヤジの言いそうなことだな。
ケリーのが現役より優秀だから気に入らないだけだろ」

「コラ、ザックス!」

へいへい、とアンジールの後ろから現れたザックスは頭をかく。


「‥私、ゲーム感覚なんかでやってない‥」

ゲーム感覚なんかで爆弾処理のシュミレートなんかするか。
好きでやる馬鹿なんかいないし。‥知らないけど。

「ああ、わかってるさ」

驚いて顔を上げたら、アンジールが苦笑まじりに近づいてきた。

「お前は誤解されやすいからなぁ。授業サボるなよ。試験だけじゃなく、つまらなくても毎回出てさえいれば実力認められて可愛がられるだろうに」

「そんなの、嬉しくないし」

全く、と呆れたように笑って、アンジールは大きな手で私の頭を撫でた。

「授業で教えてもらわずに、こうして一人で勉強するのも辛いだろ。努力も見てもらえず仕舞いだし。‥馬鹿だな」

「‥‥わかる人にだけわかってもらえたら、それでいいの」


「あははは!」

入口近くにまだ立っていたザックスが大笑いし始めた。

「すげーな、アンジール!
あのケリーが懐いてるぜ!
つか、ははっ、お前ら親子みてー!」

「なっ!?
俺はまだそんな歳ではないっ!」

「ザックスだって他人のこと言えないでしょ!
この間だってお父さんにこっぴどく怒られたちっちゃい子みたいに‥」「あーあー聞こえませーん!」

「だから、せめて兄弟と言ってくれ!」



「今日の授業ってここで‥あれ?」
「ッ、セーーフッ!?‥‥ん?なんか楽しそうだな?」

レノとカンセルが駆け込んで来て、さらに賑やかになって。
その後やっぱりアンジールに怒られた。





わかってくれる人だけ、わかってくれたらいいの。


アンジール、

できることなら、そのうちの一人になって欲しいよ。


私もザックスも、いつも怒らせてばっかりだけど。

本当に、尊敬してるの。





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