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神羅の英雄 (S)
(危ないっ!!)

動かない子供を抱えて泣き崩れる女性を前に、英雄が立ち止まった瞬間。
彼の背後に襲いかかる影があった。

―‥パンッ

私の銃から音ともに飛び出した銃弾は、女性の悲痛な嘆きを止め。英雄セフィロスの愛刀は彼の背後、赤い影を切り裂いた。


「‥そんなに死にたいですか?」

私は、思わず思ったことを口に出してしまった。
後悔した。
しかし、今更後悔すべきはこの発言ではなく、彼の戦場に不用意に足を踏み入れたことか。

『お前は慎重なくせに、時々とんでもない勢いで飛び込んで行く。気を付けろよ』

かつて教官と慕ったソルジャーの言葉だ。
ごめんなさい。またやっちゃったよ。
‥っていうか、貴方のせいなのに。2人していなくなっちゃうから、万一のためにってセフィロスの同行者が2名に増えたのよ?
しかもセフィロスの精神状態が明らかに落ち着かないから私はこんな馬鹿なことしちゃったわけで。


「‥‥何のつもりだ」

「仕事、です」

「何故その女を殺した」

「‥この女性に対して、貴方が随分無防備に見えたから」

「余計な世話だ」

「‥斬れましたか?」

「何?」

「もしこの女性が貴方の命を狙ったら」

「ふん、馬鹿なことを」

「あの一瞬があれば、可能でした」

「‥‥‥そうかもな‥。俺は意外にもあっさりと死ねたかもしれん」

「こんな‥情けない死に方でも構わないと?
ミッション中にふざけた真似しないで頂けますか。私の過失と判断されますから。
なんならミッション終了後、私が地獄へお送りします」

「お前に‥心は無いのか」

「神羅の駒にも心はあります」

「ならば、何を思う」

小難しい人だと思った。
なんだこの男。
まるで誰かにそっくりだ。
‥類は友を呼ぶ、か。

「女子供、非戦闘員を殺すことについて?
私達タークスは貴方達ソルジャーとは違います。正義をかざし、正面から戦える場など一つもない。私はとうに堕ちている。光の下に戻れる希望など、持つことすら許されない。
‥今更、道徳を重んじるなど滑稽でしょう」

「正義に反する殺生と、正義の下の虐殺。‥どちらが重い?」

「全て見ているらしい神様とやらに、聞いてみてはいかがですか?」

「神などいない」

「だからこそ、この無秩序な世界が成り立つ」

「俺は、善か悪か?」

「‥善であり、悪でしょう。貴方が英雄セフィロスである限り」

「‥‥‥こんなことを、俺だけ‥一生続けろと言うのか‥!」

「‥ぐっ‥セフィ‥ロス」

突然、セフィロスの目付きが変わったと同時に、首を絞められた。早過ぎて回避も出来なかった。

『これで終わりか』

苦しさの中で、諦めに似た予感を感じた瞬間。
私は、自分でも理解できない行動に出ていた。


渾身の力で英雄セフィロスの顔面を殴り付けたのだ。


「‥っは、ごほっ‥」

酸素が急に回ってきて、
正常な思考力が戻るとどうしようもない現実が目の前にあった。

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥ごほっ‥こほっ」

殴られた方の目の下辺りが赤く。当の英雄様は呆然と私を見ていて。気まずい思いに押し潰されそうなまま俯くしかなかった。

無言のまま、ふい、とセフィロスがヘリの方へと歩いて行って、
ヘリの方を見遣れば、珍しく呆けた表情のツォンさんが立ち尽くしていた。
英雄様が何か一言掛けて、慌ててツォンさんがこちらへ駆けて来る。
安心して気が緩んだ途端、

『あー、私、クビかなぁ』

それも仕方ないか、とかそんな考えが過ぎって。
私は、思考を手放した。













―‥‥は?

どういうこと?

主任の言ってる意味がわかりません。


「‥‥セフィロスの方からの要望で、な」

「そういうことだ」

「!?」

タークスフロアに何故英雄様が?

私の首の包帯の白と、英雄様の左頬の湿布の白がやたら眩しい。
ああ、やっぱり現実だったんだ。

「これからはお前が俺の担当だ。何か不満があるか」

「‥‥‥いえ‥」

私は貴方を殴った相手ですが、
貴方に不満がなければ私は決定に従います。っていうか従うしかないですよね。

「決定だな。
早速だが、急ぎジュノンまで行くことになった。ヘリを出してくれ」

「‥はい、了解しました」




この人、何考えてるんだろ。

殴られておかしくなっちゃったのかな?





「お前、何故俺を殴った?」

「‥‥‥‥‥‥あの、‥無意識‥でした」

「お前は、罪を背負っても生きたいのか?」

「‥生きたいです。
生きたい。更に罪を重ねても」

「何故?」

「みんな、生きてるから。
帰ってくるために、一生懸命生きてるから。
‥約束してないけど、約束なんです」

どんなに罪を背負っても、
迎え入れてくれる仲間がいる。

彼らに軽蔑されることがあるとすれば、生きることを諦めることだ。


『またな!』


その言葉に込められた重さは、
私達にしかわからない。


「そうか。
‥‥‥‥久しぶりに痛かった」

「‥‥‥‥‥‥‥すみません‥」

「お前は絶対に、死ぬな」

「‥はい」


私は、初めて、
英雄セフィロスの微笑みを見た。





「ミッションで怪我?ケリーが?珍しい〜」

ザックスにも、説明のしようがなかったのは、お互い様か。


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あきゅろす。
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