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ミッション (S)
ヘリを停め、ドアを開き、
英雄を促す。
「御武運を。
中には下っ端とはいえ、ソルジャーも混じっているようです」
「‥1時間だ。」
それがなんだ、と鼻で笑い、
銀の髪をたなびかせてヘリを降りる英雄様。
ヘリから遠ざかるその姿に、向かいの小さな工場から、責任者だと思われる神羅幹部が焦ったように近づいていくのが確認できた。
あーあ。
それだけ。
私は、それしか言えない。
もう麻痺してしまった。
英雄が愛刀に手を掛けた一瞬の後、地に崩れた人間。
金に執着し、反神羅組織に情報と武器を横流ししていた男。
――午後14時33分。
Arank極秘ミッション。
1AS・s―57、スタート。
英雄が工場内に吸い込まれて、先程のやり取りを見ていた工場の外の見張りの兵と若いソルジャー合わせて3人が石化からやっと解けたように駆け出した。
遠い村へと続く1本の道は、このヘリが押さえているというのに。
あーあ。
本日2回目。
一体これから何度声にならない溜め息を漏らさねばならないのか。
一つ舌打ちをしてヘリから降りた。
「っ!!?」
3人が恐怖で目を見開く。
なんの躊躇もなく、なんの感情もなく、私は引き金を引いた。
在るのは、溜め息だけ。
3発。3人。
顔とIDを確認し、端末にチェックを入れる。そして。
―‥フレア。
彼らは炎の中に消えた。
『死』
ソルジャーも、人間も、この瞬間は等しく訪れる。
私にもいつか訪れるだろう。
しかし、それはきっと、こんな公平なものではない。犯した罪の重さで裁かれる。
裁かれることは恐ろしくはない。私は、それを望んでいるのだ。
そう。それまでは‥
私は銃を再び構え、近づく逃げ延びてきた人間へ向き直る。
セフィロスが英雄という名の悪魔ならば、私は無情な死神か。
滑稽だ。
神に成り上がった人間は、悪魔を手なずけるために死神という餌を与える。いつ手を噛まれるかわからないのに。
「終了した。2階奥だ」
「了解しました。」
――‥午後15時02分。
ミッション終了。
端末を手に、工場内へ向かう。
あの約束から1年以上は経つだろうか。
『‥貴方が罪を畏れるならば、その罪、私が引き受けましょう。
だから、迷わないで下さい。
地獄に堕ちる、その時までは』
「確認は終わったか」
「はい」
「ご苦労」
「‥‥この部屋だけは随分綺麗ですね、厭味なくらい」
悲劇の余韻が全くない、綺麗なままの部屋。
「ささやかな気遣いのつもりだが、気に召さないか?地獄で抱かれた方が良かったか?」
くく、と喉を鳴らす。
ギラギラなんて可愛いもんじゃない。普通の人間なら目が合うだけで視線が刺さって死ぬだろう、本能に染まりきった瞳。
「英雄様に気遣って頂けるとは、光栄ですね」
必要な儀式なんだ。
初めてあの瞳に射抜かれて悟った。
本能にのまれた悪魔が、人間の作り出した哀れな一人の英雄に戻るために必要な、儀式。
そのための生贄。
銀の闇。揺らぐ瞳。
怖くないなんて嘘。
目を見る度に死を予感する。
揺らぐ瞳。
悪魔と人間が混ざっている印。
この儀式は、懺悔だ。
決して許されぬとわかっていて、それでも。と。
私も彼も、救いを求めている。
私は、銀の闇の中でだけ泣く。
汚いもの全て、涙と流れてしまえば良いのに。
哀れな英雄セフィロス。
愛の意味を知らない彼にとって、1人の女を抱くことも、1人の女を殺すことも同じ意義なのだ。
しかし、私もまた哀れな人間の一人であることは変わりない。
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