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絶対の信頼 (完結)
月日は流れるものだと最初に言った人は誰だろう。
まさしく、流れるものだと、私は実感する。
だって、月日は、水のように流れ、人の気持ちを押し流し、塵積もらせ、ごつごつした岩をも丸くするだけの力を持つから。
そのおかげで。
「スコール!」
こっちだ、と隣のラグナさんが手を振る。
やってくるスコールに、疑問をぶつけてみた。
「リノアは?」
その途端。
「‥‥‥‥‥‥」
気まずい沈黙が生まれた。
「‥あ、ごめん‥なさい」
「いや、違うんだ。
一緒に来るはずだったんだが、‥‥直前に喧嘩して‥」
「またかぁ!?
ほんっとお前らよくやるよな」
「‥いいだろ、別に」
「喧嘩するほどって言うもんね」
スコールはまだ何か言いたそうだったが、
いつまでも立ち話するのはどうかと思い、施設の奥へと促した。
「‥見事なもんだな」
「だっろー?」
ラグナさんは感心するスコールを案内しつつ、自慢げにちょいちょい説明を入れるが、あまり細かく把握していないのがバレバレで、私や研究者が説明の付け足しをいちいち入れなければならない。
ルナサイドベースを復旧することに、エスタだけでなく、全世界から賛否両論があった。
しかし。
月の涙の研究のために、と私達は再建を決めた。
無事、稼働し始めた新ルナサイドベースのお披露目と視察を兼ねて、今日スコールがやってきたのだ。
「お兄ちゃん?」
声に振り返ると、幼い子供が駆け寄って来るところだった。
「あっこら、お客様が来るから部屋でおとなしくしてなさいって言ったでしょう?」
「だって、エル姉様がスコールが来たって‥」
「エルったら‥
いい?スコールはお仕事で来てるの。お仕事終わるまでもう少し部屋で待ってなさい」
「だって‥お兄ちゃん、いつもすぐ帰っちゃうし‥なかなか会えないし‥」
「‥終わったら行くから」
ふわりと微笑んでスコールが答えた。
「本当に本当?」
「もちろんだろー!
すぐ飛んで行くよ」
「パパはいいよ、別に」
うん、我が息子はお兄ちゃん子のようです。
「ほら、ウォードさん迎えに来たわよ、戻りなさい」
「はい。
‥ママは?
お兄ちゃんのお仕事終わったら、ママもお仕事終わる?」
「ええ」
「もう今日は終わり?
ずっとお部屋にいる?」
「一緒にいるわ」
「うん、
じゃあ、待ってます!」
訂正。
お兄ちゃん子の前に、お母さん子だ。
「‥‥うぅ‥パパの立場は?」
「あんたには父親の威厳がないんじゃないか?」
スコールに言われたらおしまいだろうに。
「私達が忙しくてなかなか一緒にいてあげられないから、あの子は寂しいわね」
「‥‥大丈夫だ」
スコールがきっぱりと言い切ったので少し驚いた。
「あの子はちゃんと両親に愛されているのを知っている。
だから、大丈夫だ」
「‥‥スコール」
スコールは柔らかく笑った。
「お前も、愛されてるからな」
「‥知ってる」
「うわ、ねぇパパ、
この子ったら素直になっちゃって、びっくりだわ」
「本当だな、母さん。
良いお嫁さんをもらったかいがあったなぁ」
からかったら急に不機嫌になるスコール。相変わらずだな。
「おい。いい加減にしろ。
それに、何度も言うが、俺達は結婚してないぞ」
「しちまえばいいのに」
「今更、なんだ。
俺達は。
こうやって、喧嘩もするし‥、でもまた一緒になる。
結婚して家庭を作るには向いてない。
だけど、それでちょうど良いんだ、多分」
「満足してるのね」
「ああ」
それぞれの、愛の形がある。
選び取るのは難しく。
本当に幸せになれる人間は、はたしてどれだけいるのだろう。
でも、
幸せになりたいと、もがき、歩み続ければ。
きっと、見えてくる。
そして
気付くのだ。
幸せと。
皆の優しさが。
すぐ側に、ずっとあったこと。
「スコール、寂しくなったらいつでも帰って来いよ?」
「なるか馬鹿。
‥どこにいても、繋がってるからな。‥だろ?」
「ん?私?」
「ケリーと?
ちょっと!?ふ‥不倫!?」
「ラグナさんの馬鹿。
‥うん、そうね。
‥‥‥‥‥信じてる」
「俺もだ」
絶対の信頼は、愛ではなかったと、私は昔言ったけれど。
これもまた、愛、なのだと。
今なら素直に言えるだろう。
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