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ff
たとえつれなくても

(‥‥‥また‥)


デスクから立ち上がり、
部屋の入口まで行ってドアノブに手を掛け、
そこで一瞬フリーズ。
何でもなかったかのようにデスクに戻り、
仕事を片付ける訳でもなく頭を抱え込む。
今日は一日中ずっとこう。


(どうして今日に限ってキスティスもシュウも任務なのよ‥。
ああ、もー‥‥伝説のSEEDが聞いて呆れる‥)


まさか、あの魔女アルティミシアを倒した英雄、SEEDのトップが、こんな情けない姿でうなだれてるなんて誰も思わないだろうね。

ああ、彼に憧れてる世界中の皆様に謝れ。



ガタッ、と再びスコールが立ち上がる音が聞こえてくる。

「‥‥リーダー、いい加減にして下さい」

そう言えば、
ストップでも掛けられたかのようにドアと彼のデスクの間で歩みが止まった。

「何度往復すれば気が済むんですか?
座るか出て行くか、どっちかにして下さい」


「‥‥‥‥ああ‥」

結局、デスクに戻り仕事を続ける気になった様子。


(どーせ仕事なんて捗らないくせに)


「‥‥‥リーダー、
今日は私だけで良かったですね。いつもならとっくにキスティス達に怒られてますよ」


「‥‥‥悪い‥」


「悪いと思うなら、
どーせ私だけですから、今日はもう休んだら?
そうしてくれれば、一人だけの方が集中出来るし、スコールの分まで今日中に終わせるんだけど」

(‥やばい。言い過ぎたかな‥‥つい‥イラッと‥‥)


「‥‥‥‥‥」


スコールは黙ってじっと目線を投げてくる。


(怒ったかな‥?
あー、なんてめんどくさいリーダー!)


「‥‥悪かった。
もう、うろついたりしない‥‥だから‥仕事していて良いか?」


「もちろん、どうぞ。
仕事して頂けるなら嬉しいです」


あのスコールが私にはちょっと下手に出るのは、
私が幻のSEEDと呼ばれていたから。
別にたいしたことした訳じゃないけど、キスティスと一緒にSEEDになってから、私は実力を買われてシド学園長からの直接の任務のみ‥ガーデンに依頼された中でも難易度と機密度の高い任務を扱ってきた。
任務のほとんどが単独だったし、世界中を飛び回っていてガーデンにいることが少なかったので、いつの間にか幻のSEEDなんて呼ばれてた。
‥結構、寂しい。

魔女のごたごたで、もはやガーデンが機能しないと判断した私は、一応魔女を倒すべく任務後にガーデンへは戻らず各地をふらふらしてエスタに入った。
いろいろあって、大統領の補佐を請け負ってみたりしてスコール達の様子を伺い、世界が落ち着いたのを見届けてガーデンに戻ってみたものの。

(これじゃ、大統領補佐とたいして変わらないじゃない‥)

大統領は面白い人物でそれなりに楽しかったけれど、‥‥それはそれは大変だった。



「‥‥ケリー、
少しだけ、話を聞いてくれないか?」


「いいですよ」

キスティスとは友達だから昔からスコールのことは知っていたけど、本当に変わったなと思う。


「‥‥‥‥リノアの‥ことなんだが」


「そうでしょうね」


「最近、サイファーのところにしょっちゅう出入りしてる」


「‥それで?」


「俺とリノアは付き合ってるんだから、‥そんなこと‥ないよな?」


「さぁ?」


「まさか!?」


「‥‥落ち着いてスコール。いくら付き合ってるからって、相手を縛ることなんて出来ない。
どんな人間でも浮気しない保証なんて持ってない。
‥だけどね、スコール。
信じることだけは出来る」


「‥信じられなかったら?」


「何かが終わりに向かう時ね」


「‥‥そうか‥」




「それにしても、
まさかスコールがそんなことで悩む日がくるとは」


「そんなこと、だと?」


「そんなこと、よ。
子供の恋愛ごっこみたい。スコールはもっと良い男になるかと思ったのに」


「‥‥‥‥じゃあニーダは大人で良い男だとでも言うのか?」


「ニーダ?」


「付き合ってるんだろう?」


「まさか。
好きだとは言ってくれるけどね。ニーダとは無い」


「どうして?」


「ニーダは、私を信じないだろうから」


「あんたは、何を望んでるんだ?」


「‥絶対の信頼。
私は、信じられる誰かが私のことを信じ続けてくれる限り、その人に全てを捧げるって約束する」


「‥‥なんだか、任務みたいだな」


「そんなことないわ。
だって、私が欲しいのは、評価でもお金でもない。
絶対の信頼‥愛だけだもん。‥確かに、契約みたいだけど」


「それは、誰でも良いのか?」


「言ったでしょ?
私が信じられる人間で、私を信じてくれる人間って」


「‥‥俺だったら?」


「リノアはどうしたの」


「‥どちらにせよ、終わりに向かうのなら‥。
俺も、信じてみたいんだ。
絶対の、信頼‥。
信じる限り、あんたは俺を裏切らないんだろ?」


「‥私は、恋愛ごっこをする気はないの」


「俺は‥信じられないか?
ケリー、俺はあんたを‥信じたい」






‥迂闊だった。
墓穴掘って、はまり込んだのは私だ。


ラグナさん‥‥。
私のことなんて全然相手にしてくれない貴方が『一生のお願い!‥ってか依頼っ!』って言うから、こうしてガーデンに戻り見守っていたというのに。

どうして、こんなにこの男は貴方に似ているの?




「‥‥いいわ。
あなたの心がリノアに戻るその時まで。
私の心はあなたのもの」


「悪いが、俺が欲しいのは絶対の信頼。
すぐに手放すつもりは無いからな」



だから、あなたは子供なのよ。
あなたが欲しいのは、私の信頼じゃないでしょう?


どーしてくれんの、ラグナさん。
貴方が『よろしく頼む』なんて言うからよ。

私がぽいって捨てられちゃったら、遥々エスタに行って貴方の目の前で思いっきり泣いて鼻水付けてやる。
それから、エルに怒られてキロスさんに小言を言われてウォードさんに無言の圧力を掛けられるのを後ろで笑ってやるわ。

それで、責任取って
ずっと側に置いてもらうんだから。


うん、そうしよ。




‥それまでは。
この、貴方によく似た無垢な瞳を、不毛ながら、信じてみようと思います。




=Sebben,crudele=


『つれない人よ、
たとえあなたが
私をやつれさせようとも、
私はいつも
変わらぬ心で
あなたを愛していたい。

私が永く
あなたに仕えることで
あなたのつれなさを
弱められるでしょうから』





***

イタリア歌曲集より。

スコール夢なのか、ラグナ夢なのか‥‥orz

2009.2.1

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