いろいろ あの子について聞いてみよう 2 ギルが紅茶を淹れて持ってくる。 昔(俺にとっては昔じゃないけど)から変わらず、美味しい紅茶だ。 こうして部屋でゆっくり過ごしていると、なんだかあれから10年が過ぎたってことが信じられない。 ちょっと背が伸びて可愛いげがなくなっただけで、ギルはギルだ。 「オズ?どうした?」 「なんでもなーい」 置いていかれたようで悔しいとも思うけど、 嬉しい変化ももちろんある。 俺はギルの主人だけど、 前より対等に立っていると思う。 「あっ、ダイアナっ」 「ひぃっい!?」 「嘘だよ、バーカ」 「オズ!!」 ヘタレなのも情けないのも変わらないけどさ。 今のお前だったら、迷わず俺の友人としても隣に立ってくれるだろ? ブレイクやシャロンちゃんと一緒に。 俺に憧れてくれてるのは嬉しかったけど、俺はずっと隣に立って欲しかったんだよ、ギル。 「ほんと、ギルのヘタレは治んないねぇ。……可哀想に」 「なんっだと…!?」 「だってー、ネコ嫌いも相変わらずだし、アリスとはムキになって喧嘩するし、弟のエリオットには怒られてるし、ブレイクに至っては散々遊ばれてる。 ………可哀想なギル」 「それをお前が言うか…!」 「……ねぇ。ギル? ユメ、今先生になってるらしいね?」 「え…?……あ、そうなのか。 だ、誰に聞いたんだ?」 「エイダが、ね。 教えてくれたんだ。誰も教えてくれないから」 「そ、そうだったか?」 にっこりと、感情を隠すように微笑んで告げた言葉に、ギルはギクリと過剰に反応した。 バレバレだっつの。 「そうだよ。 でも、薄情だよね。ユメも。 俺のこと知ったらしいのに、連絡もないし、会いにも来ない」 怖いのかもしれない。 不安とか、ね。 勇気が足りないのかも。 それなら、俺だって同じで。 だけど、今はユメに連絡出来ない俺のことは棚上げにしておく。 ユメを責めるつもりもないが、ギルにははっきりさせておきたいから。 「忙がしいんじゃないか? 学校も…ほら、生徒の生活まで関わるし?」 「なんで学校に行った時に教えてくれなかったの?」 同じ校舎にいたのに、としつこく詰る。 「いや…それは…」 悪いな、ギル。 見逃すつもりはないんだよ。 『ユメ…?教師の…? ああ、キミの婚約者だった?』 『っ! 婚約者候補、だよ!』 『でも、オスカー様も認めてらっしゃったそうですし、ほぼ決まりだったのでショ?とても仲がよろしかったとか?』 『なにニヤニヤしてんの! 仲が良いっていうか、あいつが一方的に…! じゃなくて、ブレイク。 あいつのこと、なんで教えてくれなかったの?』 『それはァ、オズ君が聞かなかったカラ、ですネェ』 『白々しー』 『嘘じゃない。それはワタシの理由デス。 ギルバート君の理由は知りませんケドー☆』 『そこまで隠したいの? 無駄だよ?絶対いつかわかることだし。ブレイクの知ってること、教えてよ』 『他の人に聞いて下サイ』 『だって、面白がってるブレイクが一番たくさん情報くれそうだから』 「ユメは、俺のことなんてもうどうでもいいんだな。 関わりたくもない…のかもな…」 「ちがっ! そんなことあるはずないだろう! あいつはずっと…」 無理矢理笑顔を作ったような表情で弱音を吐けば。 「あいつは…ずっと、何? ずっとってことは、この10年も親交あったんだ?」 「お、お前っ! 謀ったな!?」 「下手に隠そうとするギルが悪いんじゃんか。 ほら、全部吐いちゃいな?」 ギルは大きく息を吐くと、諦めたように話し始めた。 「あいつの家が四大公爵家とのつながりを求めてたのは知ってるだろ?」 「うん」 彼女の家は、四大公爵家に続く貴族の家だった。 でも、嫡男である彼女の兄が体が弱かったのもあって、当主は娘のユメの政略結婚を望んでいた。 歳が近いのもあって、オズと縁談を進めたかったらしく、父親の計らいで彼女はよくベザリウス家へ遊びに来ていた。打ち解けた二人を見てオスカーも縁談を受けるように運んでいた。 「その…オズがだな…」 「アビスに堕ちた後?」 言いにくそうなギルに代わって言うと、ちょっと睨まれた。 なんでだ。 もうそんな気にすんなよな。 「死んだことになってたからな。 婚約の話は白紙になった」 「正式に決まってもなかったしね」 「それで、今度は… …ナイトレイに話が来た」 「あの父君ならそうだろうね」 「相手は誰でも良かったみたいだが、向こうは実子のフレッドやアーネストを考えてたみたいだな」 「そんで、ギルが名乗りをあげちゃった訳?」 「名乗り!?いや、ちが、……くないか…。 あのだな、もちろん婚約のこともあったんだが、ユメにその気はなかったんだ。 あいつはずっと、オズを想っていた。で、ナイトレイにあいつが顔を出すようになって、………その、」 「再会したら恋しちゃいました、って?」 「………………ま、その、 なんだ、…付き合うことになって…。 それがバレてから、婚約は俺とって話で進んでた」 ブレイクから聞いていた。 ギルの指に嵌まっていた指輪のこと。 少し前には消えていたらしい、婚約指輪。 「……終わった話だけどな。 もう俺達は別れたから」 「婚約は破棄されてないんじゃないの?」 「家同士のは、な。 保留になってるけど、兄弟の中で俺以外の誰かと結婚することになるだろうな。ユメのことはナイトレイ公も気に入っている」 だから、エリオットにも希望があるのか。 家同士の結婚なら歳の差があっても不思議じゃないし。 「昔付き合ってて、婚約してたってだけでしょ? 隠すようなこと?」 「…いや、…オズは、気にするかと思って…」 「俺が?」 「その、一応婚約してたようなもんだし…すっ、好きだったんじゃ…と思って…」 「好きだったよ」 素直に答えた。 なんだよ、そんな情けない顔すんなよ。俺だってわかってる。あれから10年が過ぎたんだってこと。 過去なんだろ? 「……ユメはずっとオズを想ってた。俺と会ってからは、いつかオズに会えることを信じてた。 俺達が付き合い始めたのも、最初はオズを待ち続ける共犯者って感覚だった」 「なんで…別れたの?」 「さぁな。 突然振られて、それっきりだ」 苦々しく笑うギルは、初めて大人の男の人なんだって感じられた。 「ははーん、 ギルってば振られてショックで俺に黙ってたな? そーだよなー、まさか10も年下の弟に乗り替えられたとあっちゃ、男として恥だよねぇ」 「は!?なんだそれは?」 「え、知らないのー?ギル? エリオット、ユメせんせに惚れちゃってるよ? 婚約者の枠、狙ってるんじゃない?」 「エリオットが!?」 ダメだ、だの、でもユメなら、とか、やっぱりダメだろ、とかぶつぶつ言い始めたギルには聞こえなかっただろうけど。 「ありがと」 ブレイクから聞いたけど、 やっぱりお前の口から聞きたかったんだ。 二人で、俺を待っててくれて、 ありがとう。 忘れないでくれて、 ありがとう。 . [*前へ][次へ#] [戻る] |