いろいろ
正反対だから [Dグレ ティキ]
「まーた引き込もってんの?」
「‥‥‥また来た」
来るたびにうるさい男。
「引き込もりは寂しいかと思って遊びに来てあげてるんじゃん」
「頼んでない」
仕事から帰ったばっかりで引き込もってるつもりもないし。
確かに仕事にはあんまり出ないけど、今日はさっきまでロードが遊びに来ていたし、寂しい訳でもない。
「酷いなぁ」
にやにや笑って。馬鹿にしてんの。
‥快楽のノア、ティキ。
あたしとは正反対のノア。
「昨日仕事に出たって聞いたから、また凹んでるかと思って来てあげたのに。
ロードに先越されたみたいだね」
ティキはさっきロードが置いてった大量の縫いぐるみを示す。
「だから、来てなんて頼んでないの」
「またまたぁ。
お前が人間を殺して来たっていうから飛んで来たんだよ?」
「その話はやめて」
「千年公がせっかく平和な仕事くれたのにね?」
「帰って」
「人間8人?また派手にやったよねぇ」
「やめてよ!」
「あーあ、泣いちゃった」
帰って帰って。
近寄らないで。
抱き寄せないで。
今のあたしの弱点は、きっと人の温もり。
欲しいなんて頼んでない。
居心地が悪くてもがいても、ティキの腕はびくともしない。
なんでロード帰っちゃうのよ。
「‥‥っ‥」
「殺すのは楽しかった?」
耳元で残忍な声。
あたしがただの人間ならきっと次の瞬間、命はなくなってる。
「‥殺し‥たくなんかっ‥なかった‥だけど!」
あの人間達が。
山奥の、不思議な噂のある洞窟がイノセンスと関係してるかを調べに行ったら、人間達に先を越されてた。
近くの村の村人8人。
入ったら2度と帰ってこれないっていう洞窟はただの金鉱で、そうと知った彼らは皆がその利益を独占することを考えた。
他者を殺してでも、と。
醜い。
なんて悲しいんだろう。
あたしはただ悲しくて、
彼ら全員、死へ追いやってしまった。
「お前は優し過ぎるんだよ」
「‥あなたに言われたくない。人間が好きなのはあなたでしょ」
「お前だって、人間もエクソシストも仲良く生きればいいとか言ってるくせに」
「無理よ。
そんなこと。
この世界には愚かな人間が必ずいるんだから」
「でも、殺したくない?」
「‥あたしは信じたいの。
皆が皆、幸せに暮らす未来が来るって」
「それで現実を見て絶望しちゃうんだよね?」
「うるさい。
いい加減に離して。暑苦しい」
「えー?愛のスキンシップなのに」
「愛を信じて悲しむのはもう嫌」
「だからさー、毎回毎回人間なんかに惚れるからだって。
オレを信じなって」
「そうして、あなたも裏切るんでしょ」
「裏切ったら絶望してオレも殺す?」
「まさか。千年公にお説教くらうのは嫌だし、あたしはこれでもあなたを愛してるから殺せない」
「‥‥‥‥‥え?」
マヌケな声。
同時にティキの腕が緩んでやっと抜け出せた。
そそくさと間合いを取る。
「‥‥今の幻聴?」
「‥信じないならそれでいいよ」
「いやいや!
そんな簡単になかったことにすんなよ!その前にもう一回言って!?お願いします!」
あたしは、絶望のノア。
あなたとは正反対。
だからかな、
あなたといる時だけは、
絶望を感じないでいられるの。
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