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g.long

「土方さん!
こっち向いてください!」


街のど真ん中。新選組が事件を無事解決(という名の大暴れ)し、辺りがまだ騒がしい、その真っ只中に、目的の人物を見つけた。


「あ゙?」

カシャリ

被写体の彼にファインダーの先から睨まれる。


「‥なんだ、またお前か。
相変わらず気配もなく涌いて現れるな」

カシャリ


あたしを確認した土方さんは睨むのを止めてくれたけど、今度はひどい呆れ顔。


「土方さん、ちょっとくらい笑ってくださいよー」


「冗談じゃねェ、写真撮らせてやってるだけありがたいと思え」


カシャリ

まぁいいけどさ。
良い男はどんな瞬間でも良い男で。
この写真が来月の記事に載ったら、きっとまた反響が凄いんだろう。


カシャリ

煙草に火を点ける良い男。

カシャリ

煙草をふかす良い男。


カシャリ

良い男の煙草を持つ手。


カシャリ

良い男の煙草の煙。



‥カシャリ、

‥‥煙の向こう側の、あの人。


「‥あ‥」

あたしは思わず手を止めた。


――‥あの人だ。




気付いたのはいつだっただろう。

土方さんの写真の中に、あの人がいた。


探したら、何枚も何枚も。




「‥ん?‥‥ああ、惚れたか?」


土方さんはカメラを下ろしておとなしくなったあたしを不審がって目線の先を辿る。

目線の先は、あの人。


「何言ってんですか。
‥‥あの人は?隊長さん?」


「お前、いつから俺追っ掛け回してんだ」


「だって、あたしは新選組に興味無いですもん。泣く子も見惚れる江戸のイケメン、土方さんをカメラに収めるのが仕事なだけですので」


「儲かるか?」


「そこそこです。おかげ様で」


「残念だが、今日のお前の仕事はここまでだな。俺にも仕事がある」

パトカーのドアに手を掛けて。


「総悟、運転しろ」

薄茶色のあの人に向かって土方さんが怒鳴る。

総悟、さん、か。


「えー‥俺ァ歩いて帰りやすんで」


「‥で。サボるんだろ。ふざけんなよ。いーから乗れ」


総悟さんはチッと盛大な舌打ちをしてこちらへと向かってきた。


「お前。俺の写真取んのが仕事だっけ?」


「‥え、あ、はい」


「そんじゃ、お前は俺に相当感謝してんだよな」


「まぁ、そうですね。
取材拒否が基本姿勢なのに許可いただいてますから」


「お前だけ」

「あたしだけ」


「どうしてだか、考えたことあるか?」


「え?」

なんだか嫌な予感がしないか?



「退けよ、ブス」


「は?」

あれ?聞き間違い?
急に耳に入った暴言に一瞬怯んで後ずさると、あの人‥総悟さんがパトカーの運転席のドアを開けた。


「そう噛み付くな。
仲良くやれよ、仲間だから」


「はあ?仲間?この女が?
土方さん、職権乱用はいけねェや。いくら副長でも自分の女を‥」


「違ェよ馬鹿。
俺はこんな女らしくねェ女にゃ興味ねェ」


‥‥は?

さっきから、この失礼な奴らは何を言ってるのだろう?
だから、このチンピラ警察は嫌いなんだ。

つーか、こいつか。
この総悟とかいう男。

こいつの登場から、何かがズレていってる気がする。


「乗れ」

総悟さんが乗り込み、土方さんが助手席のドアを開けながらあたしに命じる。


「まさか、断らねェよな?」

ニヤリ。
物凄い悪人顔。

声が出ないまま、おとなしく後部座席に乗り込み、ふと目をあげるとミラー越しに総悟さんと目が合って慌てて逸らした。


流れていく車窓からの街を見ながら、さっきの土方さんの悪人顔をカメラに収め損ねたことを悔やんだ。





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