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g.long
桜・山崎

初めて会ったときから、
怖い人だと思ってた。



全てが作り上げられた偽りのものだった。

彼を信じられないことが怖かったのではなく、彼のその『完璧さ』が怖かった。








「綺麗ですね」


そう感嘆する桜の下の彼は、絵になるようだった。


「‥そうでしょうか」


「夢乃さん、桜は嫌いですか?」


「あまり好きではありません。確かに、綺麗だとは思いますが」


「どうして?」


その微笑みが怖い。
柔らかい微笑みは鋼鉄の仮面。


「不自然な気がします。
葉も出る前に花だけ咲いて。作り上げられたような美しさ。
‥なのに、色も香りも薄くあっさりと散ってしまう」


「俺は好きですよ。
何より完璧でいい。散り際もあっさりしていてなおいい」


「山崎さんは、桜のようですね」


「それは面白いな。
じゃあ、俺も苦手ですか?」


「それは‥‥。
‥私、‥本当に‥一緒に、桜を見れるなんて思ってませんでした」


「約束したのに?」


「‥‥もう、私に会う理由はないのでしょう?
祖父は捕まったし、解決したはず。もう‥偽る必要はないんじゃないですか?」


「あれ、俺のことわかってたんだ?
俺もまだまだだな」


「いいえ。完璧でした。
だからです。‥完璧過ぎて、不自然でしたよ」


「そっか」



終わりですね。

最後に、山崎さんと桜を見ることができて良かった。


――山崎さんの‥

その内側を知りたいと思った。
けれど。今、私は本能で感じている。

『この人は危険だ』と







「初めからわかってた?」


「まさか。
しっかり騙されてました」


「途中で気付いた?」


「はい‥
‥‥山崎さんを好きになったから」


「へぇ」


「でも、それは山崎さんの本当の姿じゃなかった。
お別れですね‥‥今まで楽しかったです。ありがとうございました」



さよなら。

好きだった人。




「仮面の下の俺を知りたくはないの?」


「‥知らないまま終わる方が美しい恋もあります‥」


「俺が怖いんだ?」


「‥‥‥‥」


「仮面の下も仮面とは、考えてなかった?」


「‥‥‥」



山崎さんの本当の姿。
見え隠れする影の片鱗。
もしかして、彼自身も自らの姿を見失っているのだろうか。


憐れな人。



「俺の仮面の下を覗いた時点で、もう逃れることは出来ないんだよ、夢乃」


「‥‥あなたの素顔は存在するの?」


「さぁね」


探してみてよ、と彼は笑う。


「‥‥‥‥」


「ははは、ねぇ、桜ってさ、
色も香りも薄いけど、食べればすごく味も香りもあるよね。
食べてもらわなきゃわからないなんて面倒だけど、印象的な味でさ。一度味わえば忘れられない味。クセのある花だよね」




可哀相な人。

自分の姿を一番探しているのは、あなた自身なのに。



「夢乃は俺が桜に似てると言ったね。
このままさよならするつもりだったの?さよならできると思った?
‥俺を忘れることは、許さないよ、夢乃」



ならば、私は。
あなたがあなたである証明をしましょう。

私の前にいるあなたこそが、本当の山崎さんだと、囁き続けましょう。

そうすれば、いつの日か‥。



「夢乃には、俺の素顔を見せてあげるよ」



あなたらしく、
完璧に演じきってみせて。
私は、素顔の仮面を付けたあなたに、ささやかな安らぎをもたらすことを約束しましょう。





淡い狂気を運ぶ桜吹雪。


その中で彼はぞっとするほど美しかった。


おそらくは

私の微笑みもまた‥―――



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