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g.long

年末、年の瀬、師走……
呼び方など何でも良い。
むしろ、どうでもいい。

春は変態が増えると言うけれど、
人間とは、冬は冬で狂暴化…というより短絡的になる生き物なのだろうか。
暗いし寒いし死ぬほど忙しいし。
ああ、なるほど。
私もそうなのかもしれない。
喧嘩や事故、事件、酔っぱらい、何かと物騒なこの時期に散々走り回らねばならないストレスでイライラしているのだと思っていた。てっきり。だがしかし。
これが、この時期に人間が短絡的に…つまりイライラしやすい生き物だからだとしたらどうだ。
私がイライラするのも、世の中が物騒になるのも、本能とか生理現象とかいうやつだったりするのかもしれないのだ。

イライラする時。余裕のない時。
それは自分が人間である限りもう仕方がないことだと諦めてみてはどうだろう。
ただ、ちょっとで良い。探してみて。あなたのすぐそばにある、あたたかいもの。

そんな時にこそ気付かされる何かがきっとある。
すぐそばの、当たり前のぬくもり。

それさえ見付かれば、あなたはきっとどんな時も、道を間違えたりしないから。


※ということで、今月はイケメン達ではなく、年末に向けて増えてきた事件・事故の様子と、仕事に追われる彼らのパワーの源!支えてくれてる人々をお届けします。







「おはよーございまーす。
寒いねー、おばちゃん。あー、お腹空いたー!」


「おはようさん、夢乃ちゃん」


「おばちゃん、どしたの…今日、気合い入ってるね…。…いや、メンタル面じゃなくて、…メイク的な意味で」


「ははっ、そうかい?いつもと同じだよ。
つーか、あんたは今朝は特に白くないかい?」


「さ、寒くて…。朝から寒い道場で稽古とか…あり得ない…」


「貧弱だねぇ。局長さんや副長さんを見てみなよ」


「あたし!…一般人!ついこの前まで本当に普通に暮らしてた!」


「あぁあぁ、ほら、温かい味噌汁飲んで温まりな。
あと食後にサービスでお汁粉出してやるからさ」


「お汁粉!?」


「朝からお汁粉は嫌だったかい?」


「全然!あぁ、朝練頑張ってよかった!
でも、なんで?」


「夢乃ちゃんが雑誌にあたしらの写真載せてくれたろ?
パワーの源とか言われちゃあね、はりきっちまうよ」

「そうそう、昨日息子が嫁と見たって電話くれてさ」

「私も、近所で誉められたよ、よく撮れてるってさ」

「孫に教えてやんなきゃなね。ばあちゃん雑誌デビューしたって。あははは」

「お汁粉は皆からのお礼だよ、食べ終わったら取りに来な。温めてやるから」


「おばちゃん〜……」


「やだよ、この子は…」

「あれま。泣いてんのかい」


「泣いてないよー、泣きそうなんだよー!」


温かいお汁粉はとっても美味しくて、体に染み渡るようだった。










「じゃあ行きますかー」


「はーい」


私は、あくまでカメラマンとして、監察の仕事をやってきた。
それでも、この時期になるととにかく人手が足りなくなるため、今月は監察の人員も普通の隊と同じように市中見廻りへと駆り出される。
それだけこの時期にはトラブルが多い。


「あっ、向こうモメてますね」

ちょっと先に行って見てきます。と、新人隊士の一人が先に駆けて行った。
そのあとを俺もと、もう一人。
あたしも行かなくて良いの?と隣の退くんを見るけれど。
何故か「いいよ、大丈夫」と笑顔。


「ねぇ、夢乃ちゃん、取材とかは慣れてる?」


「取材?質問とかって意味かな?
……そうだね、する時もある…かな。記者じゃないし、長々記事にしたりはしないけど」


「そう。なら十分だね」

退くんは一体何を言いたいのか。
行く手の先に出来た人だかりの中からは依然として喧嘩らしい大声が聞こえてくる。
いくら年末で慣れたもんだとは言っても、こんな退くん並みに悠長ににこにこしている場合でもないような。

「大丈夫。心配しなくても、それを使うようなことにはしないよ」

それ、とは。あたしの腰にぶら下がる刀のことだった。

「え、…あれ?」

全く。いつの間に。
あたしは腰の刀を片手で握り締めていた。それも、ぎちぎちと音がしそうなほどに強く。


「心配しなくても、君にそれを使わせるような事態は起こらない。
先に行ったアイツ等も俺も、局長と副長からもきつく言われてるし」


「え、局長…副長…?」


「うん、くれぐれも君に抜刀させないようにって。不安だろうって思ったんだろうね。
不安じゃなかった?
それなら余計なことだったけど…」


不安じゃないはずがない。
刀は、人を傷付けるものだ。
いくら稽古を受けても所詮にわか仕込み。あたしには刀を振るう覚悟は…正直無い。
だから、あたしは退くんの言葉にぶんぶんと頭を振る。


「あ、やっぱり?
あれでもね、副長たちも気にしてるんだ。無茶苦茶言ってるけど、ちゃんと夢乃ちゃんが一般人だって理解してる。
ただ、身を守る意味で、学んだ方がいいって判断だと思う。俺もやっぱりそう思う」


「…………うん、…そっか……」


「だから、副長たちに言い含められてるわけ。ってことで、夢乃ちゃんは仲裁じゃなくて、目撃者からの証言の拾い上げよろしくね。
喧嘩の場合、当事者の証言だけだと客観性無くて困るんだよ…」


「あ、はい、」


「よろしく。
俺は仲裁の加勢に。君は証言集め。
そんじゃ、行こうか」


「はい!」


いかつい男たちよりも、女性相手の方が話しやすいということもあり、あたしはすんなり証言集めに成功し。
当事者の方も、退くんたちがあっさりと止めてしまった。


これが適材適所ってやつだね、と同行の隊士と退くんが笑っていた。
「夢乃ちゃんのおかげで早く片付いたよ、ありがとう」。
みんなのその言葉がどれほど嬉しかったか。
どうすれば伝えられるのかな。




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あきゅろす。
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