g.long
6、帰りたい。帰れない。
結論を言ってしまうと。
先日、エリー・サンダースという女性が突然現れた山に、彼女の故郷である場所への繋がりを示すものは何ひとつなかった。
『彼女はどこからどうやって来たのか』
それがわからなければ、彼女は帰る方法もわからないまま。
『…どうする?帰りましょうか』
エリーは、諦めきれないという表情で山頂付近にあった、木々の間にぽっかりと拓けた空間を見詰めていた。
そんな彼女に気遣いながら声を掛けた山崎だったが、答えは予想通り『先に帰って頂いて結構です』というもの。
冷えてきたし、と言っても無駄だろうと踏んだ山崎だが、彼女が組の保護観察下にあることを理由として付け加え、「夜になると冷えますし、もう風がひんやりしてきたでしょう?風邪ひかれると困りますし…。疲れてるでしょうし…。帰りましょう、体に悪いですよ」。
そう、ダメもとで言ってみた。
彼女はとても頑固なところがあるから、と、反発覚悟で。
しかし、少しの沈黙の後、彼女はポツリ、「そうですね…」と答えたのだった。
「手がかりが何も見付からなくて落ち込んじゃった
のかも…」
「やめとけ、頭おかしいヤツに関わるとろくな目に遭わねェ」
「でも。行きも帰りも、車の中でずっと俯いてたし、今日はほんとに言葉がなかったし…」
「車に怯えてただけだろィ」
「あー…それも、そうか…」
「とゆーことでー、報告終わりでさァ」
黙って二人の報告を聞いていた土方の返事も待たずに、沖田が部屋を出ていく。
土方がひとつ息を吐く。
特に沖田を止めるつもりは最初からない。
「車も?初めてだと?」
頬杖をつく土方は、反対の手でタバコに手を伸ばす。
ニコチンが足りない。やってられない。
「はい。馬がいないと驚いていました」
「は…、車乗っただろーが」
「最初の時は意識なかったですから、彼女」
「………そうか…。………いや、嘘くせぇー…」
「嘘であんなに車に驚けたら凄い役者ですよ。
窓の外も見る余裕なかったくらいです」
「なんなんだよ、ほんと。
ワープゾーンでも見付けてさっさとお帰り願いたいところだ」
「それなんですが、」
おずおずと山崎は言いにくそうに言葉を探す。
俺の、ただの直感なんですが。確かなものではないと前置いて。
「彼女、本当に帰りたいと思っているんでしょうか」
「何?」
「彼女の世界があったとして、それは彼女の説明にあった通り人間が勝ち目のない相手にただ追い込まれていくだけの世界です。
いくらそこで兵士で戦っていたとしても、いや、戦っていたからこそ、そんな場所に帰りたいと思う訳がないと思うんですが」
「……お前ならな」
「ひど!否定は出来ないですけど、でも、普通はそうですよ!」
「お前、あの女がそんな普通に見えるか?」
「え?」
「俺は、あの女が言ってることを信じてねぇ。
だが、全く有り得ねぇとも思わねぇ。
あの女の目は、どこかとんでもねぇ死地からやってきた奴の目だ。平和なんて知らねぇ奴の目なんだよ。
そんな奴がこの大江戸にそうそういる訳がねぇ」
「副長…」
「とにかく、ワープゾーンでも見付けたらさっさと帰せ。どこでもいいから追い出せ。面倒だ」
「ちょ、」
「だが、」
土方は頬杖を止めて、山崎を正面からしっかりと見据えた。
「だが、ここに残りたいと抜かしてきたら、最大限警戒しろ」
「どういう…」
「あの女は、戦場を投げ出す様なタマじゃねぇ。
絶望したツラでもなかったしな。
そんな奴がこの仲間も敵もいねぇ見知らぬ平和ボケした世界に留まりたいと言ったなら、何かそれなりの目的があるんだろうさ」
「はっ!地球侵略とか!?」
「うるせぇ、まずはお前はアイツを叩き帰すことだけ考えてろ」
しかしながら、その翌朝。
「もう私には帰る方法がわかりません。
帰るすべが判明するまで、私をここに置いて頂けませんか?」
彼女の言葉に土方と山崎が凍りつく一幕があったのだった。
(ち、ち、地球侵略ぅぅう!?)
土方は黙って山崎の頭に拳を下ろした。
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