[携帯モード] [URL送信]

g.long
5、化け物。ドS。



「副長!!」


「うるせぇ、さっさと行け」


駆け寄る山崎にも一瞥するだけで歩みを止めることはない。
時間の無駄だとでも言いたそうな背中だった。
しかし、それで引き下がるような山崎ではない。


「だから、俺だけでいいですって」


「その話は終わったはずだ。
お前じゃ万が一の時に役に立たん。よって、総悟が必要だ。さっさと行け」


「副長はそんなに彼女のこと信用出来ないんですか!?」


「………巨人だのなんだのあり得ねぇ物騒なこと言う奴のどこに信用が出来ると?」


「でも、悪い人じゃありません!!」


「犯罪者といっても、初対面の男の足にいきなり木の枝ぶっ刺す女が常識的か?
総悟を付けないなら、手錠でもしていけ」


「手錠!?犯罪者じゃありませんよ!
正当防衛です!アイツは彼女を人質にとろうとしたんだし!」


「だからって、普通の女は人間に木の枝を深々ぶっ刺すなんて真似、しねぇんだよ。
しかも、躊躇なく、ときた。
危険人物としか言えねぇだろ。
元の世界だか壁だかにお帰りになれそうだったら迷わず放り込んで来いよ。ついでにお前も帰って来なくても構わん」





山崎はなおも食い下がったものの、
最終的に命の危険を感じたために仕方なく沖田の同行を許す結果となった。



「なんでィ、どんな化け物かと思いきや、ただのネーチャンですかィ」


どうせ沖田はサボりの常習犯である。
姿が見えないか、ごねるか、そのどちらかだろうと山崎は安易に予想していたのだ。
それならば、沖田を連れて行かずとも文句は言われないだろうと。

しかし、山崎の意に反して、沖田は準備万端といった出で立ちで玄関に立っていたのである。


「化け物の連行だっつーんで楽しみにしてたのに、とんだ期待外れでさァ」

「沖田さん!言葉が過ぎますよ!
気にしないで下さいね、エリーさん!」

「ハッ、そんな女が好みだたァ、初耳だねィ。ん?万事屋んとこのロボ女に若干似てやすかィ?」

「沖田さん!」


興味が失せたと言いながらも、さっさと車に乗り込んだのを見ると、今回は一応サボるつもりはないらしい沖田である。鼻歌まで歌っていたところを見ると随分ご機嫌もよろしいようで。


「エリーさん、気にしないで下さいね、あの人、ドSなんですよ」

彼女が沖田と顔を合わせて、明らかにショックを受けたように思った山崎が、励まそうと声をかけた。
化け物だのと言われて嬉しい人間がいるはずがない。いたとしたら、ドM決定である。


「大丈夫です」

少し俯き加減でエリーが答える。
実際、彼女は沖田の言葉で少なからず傷付いていた。

「ちょっと、自己嫌悪しただけです」

『ここ』じゃないところで。
化け物、と、そう呼ばれた男の子がいた。彼は化け物と呼ばれる反面、希望とも呼ばれ、常に命を他人に委ねなければならなかった存在。
彼女自身はそんな風に呼んだことはなかったけれど、彼はこんな気持ちだったのかと身をもって知った今。歳若かった彼がどんなにか辛く心細かったか。どうして優しく声をかけ、手を差し伸べてやれなかったのか。エリーは悔やみ、傷付いていた。
それは彼に近い誰かのやるべきことで、ただでさえお前は関わるなと言い含められていた自分がわざわざ上司に逆らってまですることではないと思っていたのだ。
『化け物』という言葉がこんなに重い言葉だと知らなかったから。

(帰ったら…、もし、また会えたなら。
その時は、必ず彼の力になろう。
だから、どうか、無事でいて…)

しかし、彼の身柄を預かっていた人間が非常に口の悪い男だったことを考えると、彼も暴言という分野に対してはきっと早々に耐性がついていたに違いない。とも思った。


「大丈夫です。気にしてません。
それより、ドSって、なんですか?」

「………………。」


山崎は残念ながら、その問いに答えることが出来なかった。
乗り込んだ車内で、沖田がにやにやとそれはそれは面白そうに笑っていたからだ。

(答えたら、餌食にされる!)

それは、本能が察知した危機だと言えた。


.

*前へ次へ#
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!