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g.long
3、ぼろぼろの美女。手負いの野獣。


「で、巨人から逃げている最中に足を滑らせて地面の割れ目に落ちたんですって。そしたら、あの山に転がっていて、起き上がったら斜面を落ちていった。それで、あの時の強盗傷害の犯人とご対面…だそうです」


「あの山に巨人はいねぇ」


「そうですね」


「あの山近くに壁もねぇ。つか、この星にはそもそも巨人はいねぇ」


「そうですね」


溜め息混じりに、山崎は答えるが、
正直、土方の言葉にいちいち肯定を示すのも面倒になってきている。
土方はといえば、彼女についての全てが面倒だというように、眉毛が左右繋がる勢いで険しい表情を作り上げていた。


「本来なら、どっかの星からの密航船の事故ってのが有り得るんだろうが」


「彼女の知っている文明レベルでは宇宙船なんて目を回しますよ。
地球が星のひとつだってだけでまず衝撃だったんですから」


「やっぱ頭おかしいんじゃね?」


「だから、問題なし。です。
精神鑑定も、脳波も、薬物反応も。睡眠も食事も摂らせましたし、いたって正常なんですよ。
……もういい加減認めた方がいいですよ副長。絶対、神隠しとかパラレルワールドとか、タイムトラベルとか、そういうやつですって」


「ふざけんな」


「残念ながら、大真面目です。
だって、宇宙でもなかったんでしょう?彼女の言ってた地名は」


「ねぇな」


「それに、副長だってわかるはずです。
彼女、妄想でも夢でもなく、戦場を体験しています」


「…………」


「でも、刀は知りませんでした。
彼女が使用したことがあるのは、カッターを大きくしたようなもので、
……大砲って今使います?使っていたらしいんですけど。
…もう、認めましょうよ…。この世界の人じゃないんですよ」


「冗談じゃねぇな」


「副長。
これ以上取り調べるなら、俺は外して下さい。
俺はこれ以上…彼女を追い詰めるのに反対です」


「…山崎」


「俺は、彼女が嘘をついているとは思いません。
第一、今彼女は現状を受け入れるのに必死です!
こっちも意味がわからなくて困りましたけど、今、一番不安なのは彼女なんじゃないですか?
俺達に頭おかしいとか言われたり問い詰められたり、俺達は好き勝手言えますけど、彼女は全ての基準が自分の知っているものと違ってしまった。
今、彼女は『ここ』で自分がイレギュラーなんだってちゃんと理解しています。それって、ものすごく心細いことじゃないんですか!?」


「お前、あの女に惚れたのか?」


「なっ!ちっ、ちがいますよ!
だいたい、昨日会ったばかりじゃないですか!」


「お前はあーゆー外人顔、好きだったろ」


「なんですかそれ!?
てゆうか!俺じゃなくたって皆好きだって言いますよ!あんな美人さん!」


「美人ねぇ。それも気に食わねぇ。…出来過ぎだろ、突然現れた謎の美女…。どこのヒロインだ。これで記憶喪失とかならまだマシだったんだが。ややっこしい記憶ならない方がいいっての」


「…土方さん、ちゃんと美人って思ってたんですね…」


「……………俺はもう疲れてんだよ。
ただでさえ忙しいのに、やっと強盗傷害の犯人グループ確保したと思ったらこれだ。
俺は悪い夢でも見てんじゃねぇのか」


出来過ぎだ、と土方は思う。

兵士とやらの服はひどく汚れていた。
薄い茶の髪はボサボサで、葉っぱまでくっついていた程だ。
肌も泥や血で汚れていたし、小さな傷も見えた。
体つきだって、全身に鍛えられた筋肉がついていると思われる。
おおよそ女とは思えない条件だ。
それでも、見間違うことはない。
彼女は女だった。
白すぎる肌、長い睫毛、形の良い鼻筋、筋肉質ながらも無駄のないプロポーション、焦げ茶色の澄んだ瞳。
人形のような美しさだった。
化粧どころかボロボロといっていい状態で美人だと認識されるのならば、もし化粧をし、着飾ったらどこまで化けるのか。

末恐ろしいと思うのが普通だ、と土方は訴えたかった。


一息吐き、懐からタバコを取り出して一本抜き出し、火をつけて口まで運んでいく。
山崎はそれを黙って待つ。
こういうときは、必ず、煙を吐き出した後に大事な言葉が続くと知っているからだ。


「山崎」


「はいっ!」


「あの女は、ウチには手に負えねぇ」


「………は?」


「お前、あの女が戦場を知ってるって言ったか?」


「あぁ、はい。
人類の敵と戦う兵士だったって。
大袈裟だな、とは思いましたけど、嘘をついているとは思えないと…」


「嘘ならマジで助かるがな」


「副長も何だかんだでちゃんと信じてるんじゃないっすか!」


「何をだ?
お前は甘い。あいつが戦場を知っているって?
違げぇよ、あの女は、本物の地獄を知ってやがる。戦場や修羅場なんかじゃねぇ」


「地獄…?
……じゃあ、彼女は旦那とかみたいな破格の使い手ってことになります?」


「そんな生ぬるいもんじゃねぇって言ってんだ。馬鹿。
俺達が到底理解出来ねぇような地獄だろうな。
ウチのモンでも、大半は発狂する程度の地獄で生きてきた女だ。
………どうした?ザキ、手ェ震えてんぞ?」


「い、いえ、でも、でもです!
そんなに強い人なら、どうしてあんなに大人しいんです?
抵抗ひとつもせずに俺達に連れて来られて取り調べ素直に受けて。
少なくとも、危険な人じゃありません!!」


「じゃあ、どうすんだ?」


「もとの世界に帰る方法がわかるまでウチに置いてあげて下さい!
危険人物としてでなく、保護対象として!」


「じゃ、それで手続きしとけ」


「は?」


「早く行け」


「…副長…最初っからそのつもりで?」


「他になんか良い案あんのか?
いつまでも拘留しとく訳にもいかねぇだろ。ただでさえ強盗傷害犯で手狭なんだ。
そんで、あんな危険な田舎女をこの大江戸に放す訳にもいかねぇ」


「そんな、動物みたいに放すなんて言い方は…」


「動物?野獣の間違いだろ。
いや、野獣のが可愛いだろうなぁ?」


「あんた、やっぱりデリカシーなさ過ぎだろ!」

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