g.long
2、壁の外。星。
「で、それはどこの国なのかな?」
「…くに…?」
「ウォール・えっと、なんとかってとこの、調査…?兵団?それはどこの国?
いや、むしろどこの星?」
「え、星…!?」
「…………副長〜、どうしましょー…」
かれこれ1時間。
向かい合って話しているが、彼女についてわかったことといえば、名前、年令、性別、職業、両親の名前、…くらいである。
あとは、担当として取り調べを押し付けられた山崎にとっては、意味のわからないことばかり。
言葉、本当に通じているのだろうかと不安になる。
取り調べ室の中に戻ってきた土方に山崎が泣きつけば、土方は冷静に山崎の頭に拳を振り下ろした。
そして土方は椅子に大人しく座る取り調べ対象者に向き直る。
彼女の焦げ茶色の瞳と、瞳孔の開き気味の眼が合う。
取り調べ室に緊張感が走った。
「……調べさせた。
あんたが話した出身地、地名、どれも地球上には該当する場所がない」
「ちきゅうじょう?
…だから、私が言っているのは壁の中ですよ?」
「50メートルもの壁の中に街がある場所なんかねぇって言ってんだよ」
「………え、ここは、…?……。」
戸惑いを見せ、突然黙りこんだ自称エリー・サンダースに、山崎は同情を覚える。
「副長…女性なんです、もう少し言い方をソフトに…」
「うるせぇ。
…で?本当のこと、話す気になったか?頭は打ってないようだが?」
「………………」
「ご、ごめんね、この人いつも瞳孔開いちゃってて…怖がらないでいいか、ら…!?」
びくぅ、と山崎の肩が揺れた。
俯いてしまった彼女を心配して声を掛けようと、顔を覗き込んだのだ。
そこには、先程までと別人かと思う、殺気走った表情があった。
彼女が顔を上げるより早く、土方は刀に手を掛けていた。
「…っ!…本性現しやがったか。答えろ。何を企んでやがる!」
「……本性…?
それはこちらの台詞だ!
さっさと殺せ!私は壁の中の人間だ!
お前達が…っ!散々、殺してきた、壁の中のっ!」
「は?」
「なに?あなた達は知りもしなかったの?壁の中で喰われ続ける人間がいたことも。
……私も知らなかった。こんな、こんなに、あなた達巨人が人間として普通に暮らしてたなんて!」
「は?だから、壁ってなんだ。巨人?」
「こんなに、人間らしく暮らしてたなら……っ!どうして私達を喰うのよっ…!いったい何人が無惨に殺されていったと…!!」
「……………………ザキ」
「はい、副長」
「こいつ頭おかしいんじゃね?」
「…泣いてる女性に言う言葉じゃないと思います」
「………まかせた」
「うえっ!?」
「簡単に精神鑑定用のテストしとけ」
「あー、はい。
……あの、エリーさん、とりあえず、涙ふきましょうか。せっかく綺麗なのに…いや、なんでもないです」
唇を噛み締めて嗚咽を堪える彼女。
頭がおかしいとか、演技とかでここまで出来るものだろうかと山崎はティッシュを差し出しつつ首をひねる。
「……なにこれ!?」
「ティッシュ…ペーパー…ですが…」
「ティッシュ…?布なの?紙なの?」
「いや、だから、ティッシュ…」
なんだこれ。涙目で鼻すすりながらもティッシュに驚く彼女が山崎のストライクゾーンに大ヒットする。
「あの、ですね、ここには、あなたに危害を加える人はどこにもいません。
それだけは保証します。安心して下さい」
「………」
「本当です。なんなら俺が必ず守りますから。信じて下さい」
「……………」
「あっ、俺は山崎です。山崎退。
山では俺、あなたに助けてもらいましたよね。ありがとうございました。だから、今度は俺が力になりますよ」
「…あの時は、あの人が巨人だと思って…」
「きょじん?ってさっきから出てきてますけど、大きい人って意味の巨人ですか?」
「………他に何が?」
「うーん、…この星にはもともと巨人はいませんよ。俺達もいたって普通に人間ですし。多少の例外はあれど。
巨人はいません。天人ならそれらしいのもいるけど。人に危害を与えるならそうだと知らされているはずだし。
もしかして、やっぱり宇宙から来たんですかね?…今日は宇宙船の事故はひとつもなかったんだけどなぁ…」
「うちゅう?」
「地球の外です。空の上」
「……はい?」
その後、精神鑑定テストも知能テストもなんの問題もなくパスした彼女に、ますます土方が苦い表情になっていった。
「脳波も問題なしだぁ?
じゃあ、アイツはなんなんだよ!?」
「……………俺に聞かないで下さい。」
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