g.long
Hello! My family!! 2
信じらんねぇ。
総悟は本日、はっきりと父親の再婚相手に対して怒りを感じた。
今までのようにイライラで済まされるレベルではない。
こいつ、一度絞める。いつか、必ず。
だが、彼女よりも目下制裁を加えるべきは。目の前に座る教師だろう。
「おい、銀八…ぶっ殺すぞ」
「総悟くん、先生にそんなこと言うのはやめなさい」
「うっせぇブス」
誰のせいだ、と吐き捨ててやりたい。
いや、まず目の前の教師を殴ってからだ。
どこの教師が、生徒の母親を生徒の前で口説くってんだ。
「総悟くん、こんなに可愛らしいお母さんにブスはいけないよ?照れ隠しかなぁー?」
「マジで殺すぞ」
「いや、まぁ…冗談だけど。それにしても、あのゴリラにどうしてこんなに可愛らしい娘さんが…え、25?マジで!?うわ、羨ましい…いや、冗談だけど」
彼にとって最悪なことに、総悟の担任教師は父親の勲とは知り合いで、その分彼ら親子に対して気遣いはほぼない。
モテない独身者の同志だったはずの勲の裏切りともいえる再婚に僻んでいるから尚更だ。
ただしそれについては、以前勲がフラれた妙という女性が、何を間違ったかこのだらしない教師に少なからず好意があるらしいことを考えると、こいつに僻む資格はないのではないかとも思うのだが、これは全くの余談である。
この銀八という教師。いつもは警察組織の幹部として多忙な勲が来れないことなどわかっていて、面談?面倒だし飲み屋で話すからいいや、くらいの適当さだったのに、一昨日教師面して電話なんぞをしてきたせいで、こうして母親といえない年齢の(それでも母親)彼女と三者面談なんて地獄に陥っている。
彼女が現れた時から同級生の野郎どもは浮き足立つし、おい総悟、彼女連れてきたら駄目だろとかなんとかからかわれ。
目の前の教師に至っては、挨拶と同時にナンパときた。
総悟の怒りも、もはや抑えられなくなってきている。
マジで帰りてェ。
『進学せず、就職?』
そして、面談の席で。
きょとん、と首を傾げた、総悟と7つしか歳の変わらない母親は。
担任教師に意見したあげく、帰宅後、勲の前でもその話を持ち出した。
『私は、進学するべきだと思います』
煮えくり返す苛立ちを抑えに抑えられたのは、銀八や勲の前でだけだ。
次の日は休日だった。
勲は出勤で家にはおらず、二人分の昼食を呑気に作る彼女の後ろ姿を見た総悟は、この辺りで一度思い知らせるべきだと心に決めた。
まぁ、オムライスに罪はない。
せっかく良い感じに半熟仕様の卵なのに、それを犠牲にまでして話すことではない。
しっかりお腹に納めたあと、食後にグレープフルーツを切ってきた彼女に話があると切り出した。
「…進学のこと、かな?」
「俺は、就職しやす。前から決めてたことでさァ。
卒業したら、警察に…親父の真選組に入る。それは親父も土方さんもわかってたはずでさァ。あんたにとやかく言われることじゃねェんで」
「総悟くんの希望は勲さんも土方さんもわかってたと思う。…でも、それを許可した訳じゃないでしょう?」
「んだと?」
「あの二人は、総悟くんに甘いから、ずっと言えないで後回しにしてきただけ。
総悟くんには、進学して欲しいと思ってる」
「それはお前の妄想でさァ。
俺は、あんたを母親とは認めてねェ。
母親面してくんな。犯すぞ」
「…そうね、私は総悟くんの母親じゃない。私だって、母親になれるとは思ってない。…勲さんはそうなって欲しいみたいだけど。
無理。私まだ25だし。18の子供なんて有り得ない」
「………っ、なら、反対なんかするんじゃねェよ。俺は就職して組の独身寮に入るって言ってんでィ。
あんたが反対なんかする利点はどこにもねェだろ」
予想外過ぎる彼女の発言に、なんとか言葉を返したが、総悟にとってこの状況はあまり良くない気がする。
「仮に私が母親としての自覚を持ったとして、総悟くんと私は親子になれるかって言えば、それは違う。
どうやっても、私は総悟くんとは他人だわ」
でもね、と彼女は続ける。
「家族になりたいの。
勲さんの恋人になりたいだけなら、籍を入れたいなんて思わなかった。
私は何より、勲さんの家族になりたいの。
だから、総悟くんとも家族になりたい。
母親になるつもりはないのよ。他人だもの。ただ、他人でも、家族には、…なれると思うから。
総悟くんには、ここにいて欲しい。
どうしてもと言うなら、私が出ていく。
他人の私が入ってきて、息子のあなた
が出ていくなんて、それは筋がおかしいと思わない?」
「……はっ、結局、親父のためってか。
いいじゃねェか。あんたは親父がいりゃァいいんだろ?
親父だって、今更あんたより俺を大事にしたりはしねェよ。
二人で暮らす方がいろいろ好都合なこった。二人で家族ごっこでもなんでもやってろ」
「夫婦ってね、それも…所詮は他人。
たまたまお互いの好意がお互いに向いていただけ。
でも、あなたは違う。勲さんと血で繋がってる。
親子って、他人じゃないのよ。
それに、総悟くん、勲さんのこと好きじゃない」
「はぁ?」
「勲さんのために、真選組に入りたいんでしょう?」
「わかったような口をきくんじゃねェ」
「それ、本気なら、尚更進学すべきだと私は言うわ」
「…………」
今度は、何も言えなかった。
勲の手前、殴る蹴るは出来ないけれど、女相手にしてはかなり凄んでやっているのに。何故この女は少しも怯まないのか。
昨日、高校に来た時は始終困った様な顔をしていたのに。
「勲さんは、何も言わない。でも。
仕事で上手くいっている訳ではないと思う。今でこそ真選組を率いる警察幹部だけど。
本当ならもっと上にいてもおかしくない人。
それと同時に、そんなに上にいけたのが奇跡みたいな人。
もっと学歴があれば…」
「手前ェ!!それ以上言ってみろ!ぶっ飛ばすぞ!!」
「私だから言うのよ。
勲さんが後悔していても、勲さんは言えない。総悟くんが目標にしてる自分を否定するようなこと、言えるわけない。土方さんも同じ。勲さんの苦労がわかっていても、絶対言わない。
土方さんは勲さんを支えているつもりかもしれないけど、あの人も学歴ない上にグレてた過去すらある。ここぞという時に勲さんの助けにはならないの」
「…………で、俺こそは、進学して切り札となれ、と?」
「勲さんの力になりたいなら、土方さんにも出来ない、あなただけにしか出来ない支えかたをしなさい。
大学を出て、誰にも文句を言わせないように。
あなたが勲さんを守って欲しい」
「………………。
なら、進学して一人暮らし、でも問題ないんじゃねェんで?」
「…粘るね。そんなに私と暮らすのは嫌?」
「嫌ですねィ。更に嫌になりやした。
あんた、それが素かィ?
はっ、まぁ、あの親父の選ぶ女だよあんた。可愛い顔して逞しいっつーか…。
なぁ、あんた。親父から俺に乗り換える気はねェですかィ?」
「はい?」
「あんた、親父と10違うんだったか?」
「うん」
「俺とは?」
「えぇと、18だっけ?
じゃあ7つだね」
「俺のが近い」
「うん、それで?」
「俺は、あんたを母親とは思わねェ。ここに住めってんなら、俺があんたを襲わない保証は出来ねェですぜ」
想像以上に若く、好みの見た目に困惑した初対面。
冷たく当たろうと、無視しようと、嫌味を言おうと、怯えることもなく、毎日総悟に話し掛け、笑い掛けてきた。
勲の地位が狙いだったと言ってくれたら心置き無く勲から引き剥がせるのに。と何度思ったか。
勲が彼女に「ただいま」と言う顔。
事件でテレビに真選組が映るのを観る彼女の横顔。
勲の着物を干すときやアイロンをかけるときの彼女の真剣な眼差し。
自分が嫉妬しているのは、父親に対してか、新しい母親に対してか、総悟にはもうわからなくなっていた。
もう無理だ。
だから、俺が出ていく。
そう続けようとした。
「それなら大丈夫」
「は?」
「私、勲さんに愛されちゃってるし」
総悟くん、大好きなお父さんのこと、裏切れないもの。信じて疑ってない笑顔だった。
「それにね、わかってないなら言っとくけど、私も勲さんのこと愛しちゃってるし。例え勲さんの息子だって、心変わりなんかしないから」
「ヘェ?
それはそれは。言ってくれる。
わかってやす?親父は忙しい。進学するなら、あんたとこの家で一緒にいる時間が一番多いのは俺ってことになりまさァ。
4年後まで親父へのその愛とやらが不変でいられるかねェ?
俺が手ェ出さずとも、あんたが勝手に俺に惚れちまうってこともあるかもなァ?」
「あら。総悟くんの方こそ、いつでも私を『お母さん』って呼んで良いんだからね?遠慮しないで」
「言ってろ、ブス」
それから。剣道の腕前で推薦入学を早々に決めた総悟に、勲は泣いて喜んだ。
総悟は毎日年若い母親に送り出されて、勲と同じ手作り弁当片手に大学に通い始めた。
いろいろと開き直った総悟はますます(いろんな意味で)強くなったと評判で。
誰も手のつけられない凶悪な男、ドSの星の王子様と呼ばれ恐れられる傍ら、ミスターマザコンとも呼ばれるようになるのだが、それは、もう少し先の話である。
.
*前へ次へ#
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!