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g.long
今日、ふて寝してる場合じゃなかった。




「ちょっと銀さん。だらだらしてないで下さいよ」


「あー…」


「依頼ないのはわかってますから、仕事しろとは言いません。
せめてしゃきっと、寝っ転がらずに座ってジャンプ読んで下さいって」


「んー…」


「銀さん。」


あー、うるせーうるせー。
ソファでゴロゴロしてたのに、掃除機かけるメガネがやたら小うるさくてかなわない。


「しかも、そのジャンプ、先々週のじゃないですか?」


「え?」


メガネの指摘に驚いて表紙を確認すると、なるほど、先々週のやつだった。


「…もしかして、気付いてなかったんですか?」


「まさか。知ってたよ、もちろん」


この回は本当面白かったんだよねー、なんて誤魔化すけれど。
内心では溜め息がこぼれる。
やってらんねーや。

気分切り替えようとソファに座り直して頭を掻く。


イチゴ牛乳でも飲もうかな。




「銀さん、最近溜め息多いですね。
沖田さんがまた面倒運んで来たんですか?」


「………その名前はしばらく聞きたくない」


冷蔵庫の中はヒヤリとしていて頭を突っ込むには最適だった。
すぐに新八に閉めろと言われたが。






だってさぁ?

どーしよーもなくね?



あいつ、思い出してたんだってよ?

それで、俺に会わないって言ってんだから。



しかも、

『小林幸代が消えやした。小林医院にはもういないようで、足取りが掴めやせん。両親もあのエリートメガネも、医院の人間すらも何も言わねーし、文字通り消えちやいやした』

ときたらさ。



俺にできることって、もうなくね?



まぁ、このまま会わなくても、
今までと何も変わらないし、
あいつが達者でやってるってだけで構わねーとも思うがよ。




「新八ー」


「はい?」


「あいつの、…あー…小林幸代?の見送り行ったろ?」


「ええ、行きました」


「なんか言ってた?」


「なんか、ってなんですか」


「俺のこと、なんか言ってた?」


「んー…特には?」


ほらな。
今のあいつにとっては、昔の記憶は誰かのもんみたいな感じなんだろ。
俺が会いに行ったところで、過去の自分の元仲間ってことだ。
そりゃあ、会う気にはならねーよな。気まずいだけだ。

だけど、腑に落ちないのは、どうして小林医院からも姿を消したのか。



「あ、そういえば。
幸代さんが帰る前に、姉上と銀さんのことを話したそうです」


「俺のことだぁ?」


「はい。幸代さんに対して冷たかったじゃないですか。
だから、悪い人ではないんだけど、って謝ったって」


「余計な世話だっつのバカヤロー」


「でも、確かに冷たかったじゃないですか。
そしたら、幸代さんが言ってたそうです。
私も悪いから。って」


「は?」


「………あの。
これは、言う気なかったんですけど。
本当に幸代さんに対して酷くないですか?」


部外者は黙ってろと言いたかったが、
言えなかった。
あいつのことを新八は知らないし、話したこともない。小林幸代の側に立って俺を責めるのも致し方ないことだ。


「銀さん。
幸代さんに聞かれました。
私に似た誰かを知っているかって。
僕は知らないって答えました。
銀さん。幸代さんに似た人がいたんでしょう?」


「………もう、死んだけどな」


「わかってます。
銀さんは何も言わなかったけれど、そのくらいわかります!
幸代さんだって気付いてました!
大事な人だったんだろうって。
わかってたから、幸代さんは銀さんに冷たくされても気にしないって言って…亡くなった人を思い出すのは辛いだろうから、自分はもう銀さんには会わない方がいいって言って…!」


「…え?」


「最初は、仲良くなれたらいいなって言ってたんです!
僕や神楽ちゃんを見てれば銀さんがどんな人かわかるって。
なのに、銀さん、幸代さんに何を言ったんですか!?
急にもう銀さんには会えないって。
会わない方がいいって。
いくら亡くなった人に似てるって言っても、酷いです。幸代さんが一体何をしたんですか?
違う人でしょう?彼女に冷たく当たるのは筋違いですよ!それで今さら幸代さんのことを気にしてるんですか?
意味がわからない」


「俺だって意味なんか…何もわかんねーよ。
死んだはずのやつが目の前に現れて、良かった良かったってすんなり受け入れられるやつがいるかっつの…」


「な、え?
死んだはずの…人…?」


「あいつなんだ。
似てんじゃねぇ、ホンモノなんだよ」


「え、同一人物だったって、ことですか?」


「また会えたのに、俺は、何も言えなかったし、しかももう会いたくないとか言われて。
どこに消えたのかもわかんねーし。
あげく、会わないって俺のため?
……なにが、もうあいつじゃない、だ。あいつじゃねーか。
何にも変わってねぇ、馬鹿な夢乃のままだ」


「…なんか、よくわかんないですけど、幸代さんは大事な人なんですね?
なら、会いに行かないと!」


「無理だよ、どっか消えたし」


「銀さんらしくない。
ほら、捜しに行かないと!
定春なら捜せるかもしれないです。神楽ちゃんもそろそろ散歩から帰ってきますよ」


「会わないって言ってんだから、もういいって」


「何言ってんですか。まずは幸代さんに謝らなきゃ駄目でしょう?
どこか心当りないんですか?」


「知るかよ。
心当りったって、俺かヅラのとこじゃないなら辰馬は宙だし、―………高杉か?」


「ぅえっ?」


「あー、あいつなら、高杉ぶん殴りに行くとか普通に言いそう」


「…なんかイメージとかなり違うんですけど、…た、高杉さんは、その、どちらに?」


「それこそ知らねーよ。ヅラに聞いても知らな……いや、そうか。ヅラには記憶のことを話した可能性があるな。だいたい、幸代がヅラんとこ行ったのに、当のヅラは俺のとこに来なかった。ヅラが黙ってる訳がねぇのに」




十中八九、ヅラが何かを知っている。


昔から夢乃とヅラが組むとろくなことがない。

やばいかもしんない。


頼むから早まるな。




2012.6.14.

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