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g.long
今日、話題のプリンに目がくらんで。




「だ〜んなぁ〜」


「‥出たな、疫病神」


しまった。新八も神楽もいねえ時に。
呼んでねえよと追い返したいところだが、沖田くんの右手にはコンビニの袋がぶら下がっていて、しかもどうやら最近話題のプリンらしい。
困ったな、仕方ないし、もらってやらないこともない。
プリンとそれに付属した沖田くんを通してソファに座らせる。
プリンのためだ。コーヒーくらいは出してやろう。


「旦那って本当に欲望に忠実ですよねィ」


「うん、ありがと」


「まいったな、褒めたつもりなかったのに。
おや、小奇麗になりやした?」


沖田くんが机にプリンを並べる。
それには前はなかった小奇麗なテーブルクロスが掛けられている。
薄い水色の、控えめにストライプとやらの、まあ悪くない趣味の。


「神楽が汚すからねー。新八があった方がいいってさ。防水とかでこぼしても拭けば済むとかって‥おいいいい!」


「ほんとだ」


「俺のイチゴ牛乳!!試すならおめーのコーヒーでやれよ!
ってか試すな!!」


全く。
こいつはまた余計なことしかしねーんだから。


「そういや、いつものメガネとチャイナは?」


「散歩だと。長靴見せびらかすってよ」


「長靴?今日は快晴ですぜ?」


「花柄だか鶏がらだか、女子の長靴買ってもらったとかってはしゃいでんだよ」


「へえ、チャイナがねィ。
このクロスはメガネでしょう?
で?旦那は何をもらったんですかィ?」


「は?」


「あの田舎娘の置き土産じゃねーんですかィ?」


「あー、俺は別に。依頼の報酬ならきっちりもらったからな」


「寂しいですねィ」


「馬鹿言うなよ、銀さん気にしてないよ、全然」


「へぇー。
じゃあ、これ、渡しときますんで」


「なにこれ」


「一応、協力の礼に。パフェでも食ってくだせぇ」


ファミレスの食事券?
それは大歓迎だよ。沖田くん。


「いや、そっちじゃなくてね。‥マヨネーズとかいらねーんだけど。持って帰ってくんないかな。きもいよ」


「まーもらって下せェ。可哀相なお人の精一杯の礼のつもりなんですから」


「‥きみにそこまで言われる大串君が可哀相になってきた」


まあ、マヨは神楽にでもやればいいか。


「小林幸代は桂と接触しておとなしく帰ったようですねィ」


「らしいな」


「‥‥確認ですが、あの女の目的、知ってやすか?」


「直接聞いちゃいねーけど、惚れた腫れたの話だろ。ヅラのくせに色気付きやがって。でもま、おとなしく帰ったっつーんだ。話はついたんだろうよ」

ヅラのもとに案内して、あの女はその晩帰って来なかったらしい。
翌朝戻ってきた彼女は「故郷に戻ります」とお妙に伝えた。
俺はもちろんその場にいなかったし、神楽たちが騒いでいたお別れ会とやらにも行かなかったから、あとで新八経由で報酬をもらっただけだった。


「その様子だと、知らないって感じですねィ」


「うん?」


「いえ、いいんです、知らないなら知らないで。んじゃ、まずいコーヒーごちそうさんでした」


「ちょ、まてまてまて。それやだ。
俺だけ仲間外れはやだよ!?」








そして。
沖田くんは語った。



よく物語とか映画とかだと予感がしたとか、直感とか、第六感?的なものを感じるけど。
俺は結局沖田くんの口から聞かされるまで全く何も感じなかった。
そりゃそうだよな。
感じるも何も、小林幸代のことを見ないようにしていたんだから。

ちゃんと向かい合って聞けばよかった、と。あの女が消えてから後悔するばかり。



「おっと、小林幸代の住所、落としちまったなぁ」



わざとらしく沖田くんが落としていった紙切れをぼんやり眺めていると、だんだん自分で馬鹿らしく思えてきて。
そもそも俺は馬鹿じゃねぇか。
悩むこともない。
踊らされてやるよ、総一郎くん。


食えない斬り込み隊長様がファミレスの食事券だと置いていった封筒には、彼女の町への切符が入っていた。




2012.4.14.

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