g.long
2.第3者の覚悟
沖田さんから呼び出されて校門まで全力で駆けて来たのに、沖田さんは氷の視線を向けて俺を待っていた。
「遅ェ」
「ひどっ!俺めちゃくちゃ走って来たのに!」
「あ゙ん?」
「いいえ!遅れてすみませんでした!」
沖田さんは俺の持って来た、自分の鞄を引ったくって校門をくぐった。
「何もたもたしてやがったんでィ」
「は?俺めちゃくちゃ走って来ましたよね?」
「そうじゃねェ、部室出てってから俺が電話するまでずいぶん教室にいたんだなァと思っただけでさァ。
普通だったらとっくに帰り道だろ」
「ああ、ちょうど教室に夢乃ちゃんがいたから話して‥‥って‥もう帰ってるかもってわかっててあのタイミングで電話してきたの‥!もしかしたら俺が学校の外にいたかもしれなくてもわざわざ学校戻って『かばん持って来い』って言うつもりだったんですか!?」
「ごちゃごちゃうるせぇ」
「‥暴君だ」
学校戻って取って来い。
‥この人ならやりかねない。
いや、むしろそれを狙ってたのか。だからあのタイミングで。と
ここまで考えて気付く。
「あのタイミング」が、俺が学校を出るだろうタイミングじゃなくて、俺と夢乃ちゃんが話しているタイミングだとしたら?
‥この人ならやりかねない。
「沖田さん‥まさか俺が夢乃ちゃんと話してるの知ってて‥?」
「あ?んな訳ねェだろ」
「ふーん。ほー‥っ、わかりました!わかりましたから!そんな狙ってかばん投げないで下さい!
なんでもないです!もう何も言いませんから!」
ほんと素直じゃない人だなと思いつつ、俺は顔に出さないように必死だ。
この人が夢乃ちゃんを気にしてることなんて、俺はとっくに気付いている。
ははは‥そう、まるで、小学生のガキ大将のような想いでね!
『好きな子ほどイジメたい』
まぁ沖田さんらしいっちゃらしいんだけど。
「そういや、夢乃ちゃん
気にしてましたよ?沖田さんが可愛いげないとか女らしくないとか言うから」
「あぁ?」
「いや、そんな怖い顔で睨まないで下さい。ほんと怖いんで。
夢乃ちゃんってば『可愛くなりたい』みたいなこと言ってましたよ。ちょっと沖田さん言い過ぎなんじゃないですか?」
「知らねーよ。
ほっとけ。どーせ可愛くなるなんてアイツにゃ無理でさァ」
あーあ。
どうして『そのままで良いよ』くらい言ってあげないんだか。
沖田さん、なんでそんなにあまのじゃくなんかなー。
バレバレなんすけど。マジで。
あの沖田さんをここまで惚れさせた夢乃ちゃんて本当凄いと思う。
俺が高校でこの学園に入った時にはすでにこの状態だったから、それよりも前、2人にどんな出会いがあったのかすごく気になる。
だけど、聞けない。
それだけは、俺の意地だから。
聞いちゃったら。
空気読んで沖田さんの応援しなきゃいけなくなりそうだし。
だからといって邪魔がしたい訳でもないけどね。命は大事。
俺は観察者なんだ。
彼女が幸せになるのを見届けるだけの。観察者。
その方が、俺らしいでしょ?
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