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g.long
今日、寝坊しました。

小林幸代?演歌歌手かっつーの。



『坂田さんて、素直な人ですねぇ』


アイツとそっくりな顔を俺に向けないでくれ。

かき回されたくない。
頼む。
触らないでくれ。

そう言ってやりたかったが、
アイツとそっくりってことは彼女の罪じゃない。


そうだろ?


アイツは、もう、いないんだ。

アイツの面影を探しちまう俺が悪い。


……んだよなぁ?






『ぎんとき。この戦いが終わったら、どうする?』


『どうって?』


『なんかあるやん、故郷戻って孝行します!とか、商売始めようと思ってぇ、とか、道場継ごうと思いますとか。辰馬みたいに宙に行くとか』


『辰馬みたいに、か。
辰馬のやつについて行きたかったか?誘われたんだろ?』


『なぁっ!?なんで知ってんの!?』


『辰馬が連れてくって言ってたからな。まだお前がここにいるってことは、振ったってことだろ?なんで?
行けば良かったんじゃね?』


『それ、ぎんときにだけは言われたくない。
だいたい、断ったのはぎんときも同じじゃない』


『まーな。知ってんだ?』


『辰馬が振られたって言ってた』


『アイツもてねぇなぁ』


『で?ぎんときはどうするん?戦いが終わったら』


『お前、そんなの聞いて回ってんのか』


『悪い?いいやん、別に聞くくらい』

あれ?と思った。
アイツの焦りが、珍しかった。
めったに焦らないアイツが焦るから、
いなくなったモジャのせいにしたくなった。

なんでって、不安だったから。

『終わり』の見えてきた戦いで、
焦ったやつほど早く死んでいった。


『ヅラと高杉には聞いたか?』


『ヅラは、この国を変える…みたいなこと言ってた。ヅラのくせになんや難しいこと言ってたから殴っといた。
手ぇばっか先に出て…先生に怒られるなぁ、はは。
高杉は、なんも。答えてくれなくて。片目になってから付き合い悪くて…。あたしの頭ぐしゃぐしゃーってしてどっか行った。あたしは子供か!
お前のがよっぽど心配だっての!』


『あー、夢乃サンどーどー。こないだの傷開きますよー』


『こんなんで開かんわ!』


高杉は、やっぱヘタレだな。
アイツあれで単純馬鹿だから、
夢乃の為にも、とかって戦うんだろーなぁって、他人事みたいに思った。


『お前は?』


『あたし?
正直…わからん。全然。
なーんも見えなくてさ。
この先、なんもないみたいに…なんも思いつかないし、なんも…ない』


その時のアイツの横顔を見て、ぞっとした。
本当に、何もなかった。
明日にはどっか消えてなくなりそうなくらい、目の前にいるのに存在感がなかった。


『俺はー、そうだな、あれだ、あれ』


『は?』


『あれだって』


『だからあれってなに』


はっきりしろと、呆れたのか少しばかり寄った眉にほっとした。
なんだよ。
辰馬と一緒に行っちまわなかったことにほっとしたばっかだってのに、今はそうなった方が良かったのかもしれないとか思うなんて。


『あれは、あれだ。…昼寝?』


『なんで疑問系?
昼寝がどしたん』


『昼寝すんだよ。思いっきり。
戦い終わったら、俺は昼寝して、ごろごろして、死ぬほど自堕落に暮らすね』


『仕事とかどーするん?』


『なんとかなる』


『ならんわ、あほ。
でもま、ぎんときらしいな。
…安心した』


『ん?』


『先生が亡くなってからのぎんとき、昔みたいな顔してたから。
たまにだけど。
なんにも望んでませんみたいな顔。
初めて会った頃の、ぎんときみたいで。でも、安心した。この戦い終わったらさ、腐るほど自堕落に生きて廃人にまでなればえーよ。あはは、自ら廃人になりたいってなに?はははっ』


『あはは、じゃねぇっつの。
お前もだ。お前も、好きなだけ昼寝すりゃいい。
好きな菓子食って、髪だって伸ばせばいい。邪魔になんかならねーよ、もう地獄は終わってんだ。
んで、春は花見して、夏は祭行って。秋は旨いもん食って、冬はこたつで暮らす。そんなんは嫌か?』


『髪、は嬉しいけど、きっと似合わないだろうなぁ。
つか、だいたい今と同じじゃない?
ぎんときの暮らしぶり、今も十分自堕落だけど』


『おぅ』


『おぅ、て。
胸はって言うことか』


『変わんねーよ。戦い終わったらって言ってもな。
俺達は俺達だし、辰馬も宇宙に行ったってやっぱりモジャだろうし、お前もやっぱり俺と一緒に馬鹿やってんだろうよ』


『ずっと?…一緒に?』


『ずっとだ。安心しとけ、たぶん飽きねぇから』


『……うん、わかった』


何もなかった俺に世界をくれた先生。
音をくれた馬鹿ども。
光と色をくれた、夢乃。

今度は俺の番だと思った。

だから俺は必死で足掻こうとしたのに、
アイツは笑って『わかった』と言った。

諦めたから笑ってたのか。
アイツがわかってたのは、死の予感だったのかもしれない。





だから。

あの時、どこかでやっぱりって冷静に思っていた。

斬られ崩れ落ちる、紅い夢乃の姿に。

しっかりしろ、生きろ、と叫ぶヅラの声と、言葉にならない高杉の咆哮を聞きながら。

―夢乃が死んだ

脳内に響いた、最悪の宣告。


そして、

それはあの時から、
ずっと自分に言い聞かせている。

―夢乃は死んだんだ

―夢乃は死んだんだ














「銀さん!!いい加減に起きて下さい!」

「ほれ、早く起きるアル、マダオ!!」

「もうお昼になっちゃいますよ!?」

「よし、goネ、定春!」

「わんっ!」





起きると、紅いのは、アイツじゃなくて、俺自身でした。






最悪の朝だ。

アイツの夢ならまだしも、
アイツの最期の夢なんて。


ちくしょう。


結野アナを観逃したじゃねーか。



これはもう、
あの女のせいだ。そういうことにしていいよな?

アイツそっくりな、あの女のせい。


くそ。


さっさとヅラ捕まえて会わせてオサラバしてやる。






2012.4.10.

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