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g.long
今日、温泉で。


ある日、買い物に出ていた新八が大騒ぎして帰ってきた。


『うっせーな‥ったく』

『メガネならメガネらしく黙ってろネ!ダメガネが!』


『あーあ、そんなこと言っちゃって良いんですか二人とも?』


憎たらしい顔で見せびらかしてきやがった紙っぺらに、神楽は文字通り飛び付いた。


「ご当選おめでとうございます!
ご家族温泉ご招待!」


ギリギリの理性で飛び付くのを阻止した一枚の紙っぺらには、4名まで温泉旅館2泊3日の宿泊券と書かれていた。











そんないきさつで、
温泉に浸かっているわけだ。


「ぎゃほーい!」

「だめよ、神楽ちゃん。
温泉に飛び込んじゃいけません。飛び込むならあのストーカー女の真上になさい」

「何よ!ストーカーじゃないわ!
ただちょっと、こうして銀さんを覗こうとしてるだけじゃない!」

「くらえヨ、天誅ゥー!」





「‥‥銀さん‥賑やかですね、女湯の方」

「‥ホントだな。一体どこのバカが騒いでるんだろうなァ?新八君‥もしかして知り合い?」

「まっさかぁ!全っ然知らない人達ですよ、多分」

「だよなァ。俺もきっと赤の他人だし〜」

「ですよねー!
‥‥‥‥‥。」

「‥‥‥‥‥‥。」


聞こえない聞こえない。
知り合いなんかじゃないですからァア!


「なんてがさつな人なの!
お逝きなさい!銀さんは私のものよ!」
「あんなグータラな人が良いだなんてやっぱり貴女バカなのね、可哀相に。
神楽ちゃん、殺っておしまいなさい。なんかムカつくから」
「ヘイ!姐御!」




「‥‥ねぇ。新八君」

「なんですか?」

「どうして納豆忍者がいるんだろうね?」

「‥さぁ。やっぱり銀さんのことストーキン‥」
「それ以上は言うなァァァア!俺は現実を直視したくないの!」


せっかく身体の疲れが癒されてるのに、これじゃ心のストレスが倍増するよ!?




「‥そういえば、ですけど。
ありがとうございました。わざわざ姉上の休みまで待ってもらっちゃって。
本当ならもっと早く行けたのに」

「別に、温泉に旬もシーズンも何もないだろ」

「だって混んでない時期にゆっくり温泉入りたいって言ってたじゃないですか。結局連休ど真ん中になっちゃって」

「あー‥まーな。
けどよ、神楽にも保護者必要だろ」

家族――ようするに4名様まで(それ以上は割引価格で)ご招待という内容の宿泊券に、メンバーはすぐ決まった。
万事屋3人とお妙。
しかし、お妙の予定でまとまった休みが取れ、こうしてやって来たのがそれから一ヶ月以上経った後のことだった。


「保護者、ですか?」

「ああ、保護者が必要だと思ったんだがな。
保護者がまさか共犯者‥いや、けしかけるような真似をするとは‥皆さん出てっちゃってあっという間にシーズンオフの静けさだよ!」

「‥すみません、そこは弟として一応謝っておきます」




もちろん、神楽を一人で女湯に入れて問題起こされるのも阻止したかったが、
それよりも、思ったことがあったから。



『いいよなぁ、男は。あたしも男湯入りたかったわー』

『馬鹿言え!』

『だって、ぎんとき達が隣で騒いでるのに自分だけ混ざれないで声を聞くだけなんて、寂しすぎる。今は一緒に騒いでいられるけど、いつかは、あたしだけ変わらなくちゃいけないのかなって嫌なこと考えてしまう』

と言った女は、何故自分だけが女なんだと悔しそうに呟いていた。
その時、そんな弱音みたいな呟きを聞いたのは俺だけで、俺は何も言ってやれなかった。
だが、他の誰であっても、あいつの小さな呟きに応える術を持っていなかっただろう。


もし今だったら、
あの時飲み込んだ一言を言えただろうか、と少し考えた自分が馬鹿らしくなって。

「のぼせた」と言い置いて新八より先に上がることにした。




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