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g.long


意地がありますか?

私は、絶対にこれだけは譲れない。っていう意地が。


意地はプライドとは違うから、
決して自慢できるものじゃなくても良い。
人生のどん底でも貫き通せるような意地を、私はいつか持ってみたいと思っている。


今の私の意地は、未熟な状態だからこその意地だ。
自慢なんかできるものじゃない。青臭くて情けない意地だ。

「誰にも弱さを見せない」

人によっては、そんな程度のことかと思うだろうし、弱さを見せることも時には武器になると思う人だっているだろう。
それでも、これが今の私の意地である。
強い意志を持って言えるのは、それなりの過程があって、強く思うようになったから。
そんな過去が私の記憶の中でぐるぐると小さな渦を作っている限り、私はこの意地を貫き通すつもりである。


しかし、

意地も全部丸ごと受け止めてもらえる居場所が見つかった時、

意地は意地じゃなくなるのだと

今更ながらに気が付いた。


















今日も今日とて早朝稽古。
救いは今日が非番であることくらいか。

そう、非番よ?
非番なのに早朝稽古!?
‥言ったらまた沖田さんが煩いだろうから言わないけど!

って思ってるそばから沖田さん!?寝間着姿でニヤニヤしながら向かってくる。道場に行くのはこの廊下を通るしかないのはわかってるけど、どうしても引き返したい。今すぐ。切実に。



「オハヨーゴゼーマス。非番も朝から稽古たぁ感心ですぜ」

「‥‥‥それはどうも」

「さ、俺はゆっくり二度寝すっかねィ」

「‥‥いいからどいてくれませんか!?あたし、急ぐんですけど!」

「遅刻ですかィ?」

「あなたのせいで遅刻しかかってるんです!」

「あ?聞こえねーなー‥
‥‥‥‥‥なぁ、あんた今日‥」

「なんですか?なんでもいいから通してください」

「‥‥‥‥‥‥‥‥まァ俺の知ったこっちゃねェし」

「?」

突然驚くほどあっさりと引いた沖田さんが少々気持ち悪い。
意味がわからないまま、とりあえずは遅刻ギリギリの早朝稽古に向かうことにした。
















「馬鹿か、お前」

目が覚めると、どうやら自室らしい天井と土方さんのタバコの煙が揺れているのが目に入った。


あれ?
なんでだ?
あたしは‥‥そうだ、早朝稽古に行って、それで‥?

「熱あるならちゃんと言え」

土方さんの低い声がやたらと突き刺さる。

「‥すいません。だって、たいした熱なかったし‥」

「37.6でたいした熱じゃないって?」

「‥‥‥38度いってないし」


朝起きて、何となくヤバイ気がして。測ればそこそこの熱があった。
でも、元々あたしは体温高いし、熱出すのも珍しいことでもなかったし。毎日毎日十分な休みが取れない日が続いていれば仕方ないよな、と諦めて稽古に向かったのだ。

素振りしてて、「死ね、マヨ方!」って聞こえて。二度寝するんじゃなかったのかと思いつつ、土方さんから距離があったからとばっちりは受けないだろうと油断していた。それが、まさか爆風で退くんが飛んでくるなんて。ぶつかりそうになって「あっ、やばっ」って思ったのは覚えているから、きっと熱で倒れた訳じゃなくて、頭を打ったか何かだろう。


(悔しいな)

やっぱり元凶は沖田さんか。あの事故さえなければ、熱のことはバレなかったのに。

「なんだ。その顔」

「大丈夫です。放っておいてください。すぐ熱下がりますから。
稽古だってできますし」

「‥‥‥お前なぁ。」

土方さんは最後の煙を吐き出して、短くなったタバコを携帯灰皿に始末する。


「熱あったら言え。
つーか、何ふて腐れてんだ」

「ふて腐れてません」

「‥いい加減にしろ」

冷えた声で怒られた。
さすがにあたしも悔しいけどちょっと怖かった。悔しいけど。ちょっとだけど。

「ごめんなさい。‥‥でも!
本当にたいしたことじゃないんです。
この程度の熱なんかで休んでたら働けません」

「よく熱出すのか?」

「昔よりは随分少なくなりましたけど。
それでも、一週間に1日はゆっくり寝ないとこんな風に熱出したり風邪ひいたり‥‥サボりたい訳じゃありません。でも、あたしは、‥‥朝から晩まで毎日毎日働くことは、‥‥出来ないんです」

認めたくなかった。
人より弱いこと。
すぐ風邪をひいて学校を休めば、羨ましがられた。体が弱いと言えば、疑い半分、良くて同情されて、悪いとやる気の問題じゃないのかと非難された。

体調が悪いことは恥ずべきことかもしれないと気付いた。
それを隠そうとし始めたのは、子供の頃だっただろうか。
今では、体調を崩しても、それを隠し通すことがあたしの意地だった。


「体、弱いのか‥」

「今は強くなりました」

「弱かったんだろ、強くなったっていっても体が変わるわけじゃねぇ」

「でも!日常に支障をきたす熱とかじゃな‥‥‥」

睨み付けるつもりで視線をあげたのに。
土方さんは、見たことのない表情であたしを見ていた。

同情とも心配とも違う、でも、優しいような気もする顔で。

「無茶すんな。
稽古は週5日でいい。非番なら休め。‥健康管理はしっかりしろ。それも仕事だ」

「‥‥‥‥‥は、い」

「風邪ひいたらちゃんと言え。
治すまで出てくんな。他の隊士にまで移されちゃたまんねーからな。ったく、体弱い奴が無理して風邪拗らすとただの風邪だったのが酷い風邪にレベルアップしてそのあと移った奴が大変なんだよ」

「え?」

なんかすごく具体的な感じだよな。そんなことがよくあった、みたいな。

「つまんねぇ意地張るな。
それは体調崩す前だけにしやがれ。意地でも風邪ひかねぇよーにな。ただし、崩したら快復するのに意地になれ。
隠そうなんざ、くだらねぇ意地だ」

「‥‥はい」

「朝稽古は特別に1時間遅くしてやる」

「マジですか!?」

「そーいうとこは素直だな‥。
睡眠不足もまずいんだろ。1時間だけな。だが、遅刻は厳禁」

「‥う、はい」




その日から2日、ゆっくり休ませてもらったあたしは、再び仕事で忙しくしている。
でも、前よりももっと、自分を大切にしようと思っている。



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あきゅろす。
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