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g.long
1.あと3cmの勇気
「あたしのこと、苦手でしょ?」

二人きりの張り詰めた空気の中で話題に詰まって切り出した、地雷のような質問。

「‥え。‥‥‥ええ!?」

「素直に言えば?
別に気にしないし。そんな困ったような顔で否定されても信じられないよ」

「‥‥‥‥」

とうに知っている。
地雷を踏むのは、あたしだと。
自分で仕掛けて自爆するのだ。


「あたしのこと、苦手でしょう、山崎?」

「‥‥うん、ちょっと苦手‥かな‥。‥ごめん」

「だろうね。
気にしないで。あたし気にしないから」

嘘だけど。

「あたしだって自分の欠点くらいわかる。残念な奴だなって思うけど、これまた残念なことに生き方ってなかなか直らないし」

「何言ってんの、夢乃ちゃんはそのままでいいじゃんか」

山崎、あんたは本当に優しいね。
そういうことをストレートに言って、でも思いやりもちゃんとあって。

「ありがと。
でもね。無愛想、可愛いげ無し、女らしくなくて色気無し。それから‥なんだっけ、馬鹿で口悪い‥だったかな?」

「何それ?」

「あたし。らしいよ?」

「そんなこと‥あー‥沖田さんが言ってたの?」

「そ。自分で言うのもあれだけど、酷すぎるよね。残念なことに全部当たってるし。
山崎、あたしがもし‥ほらあの子達みたいに女の子らしくなれたら‥」

窓の外、校庭を歩いて家路に向かう女の子達4人組を示す。
彼女達はうちのクラスで、学年でも断トツで可愛いと言われている女の子の集まりだった。
可愛い女の子は群れる。それがまた可愛く見えたりして。
その中の一人と山崎は席が隣で、二人が仲良く話しているのをあたしは羨ましく思ってた。

「ええ!?
何言っちゃってるの!?夢乃ちゃんがあの子達みたく可愛く?いやー無理じ‥あたっ!」

「あ、ごめん足踏んじゃった?」

「‥絶対わざとだ‥」

「あら、何が?」

「何でもありません。」

「‥‥‥‥あたしだって、たまには‥あんな子に憧れたりするの」

「どうして?」

「羨ましいんじゃない?
あたしに無いもの持ってるから」

あたしには、山崎とあんなに柔らかい雰囲気で話すことなんてできないから。
あんなに魅力的な笑顔を山崎に見せられないから。

「そうかもしれないけど、それって夢乃ちゃんに必要なものだと思うの?
逆に言えばさ、あの子達に無くて夢乃ちゃんが持ってるものもあるでしょ?」

「‥そうかな」

「じゃなきゃ沖田さんも土方さんも夢乃ちゃんと仲良くなんかしないよ」

「仲良くないし」

「仲良いって言うんだよ、そういうのを」

「ふーん。
‥‥ねぇ山崎、帰るんでしょ?
よかったら‥」

「あ、ごめん。電話だ。
‥もしもし?
沖田さん、‥え?はい、教室です。かばん?‥‥えー‥‥‥いえ!はい!すぐ行きます!!
‥ごめんね、夢乃ちゃん!また明日!」


『よかったら一緒に帰らない?』


その一言が言えなくて。

言わなくて良かったとどこかホッとして。


沖田のかばんを引っ付かみ、全速力で飛び出して行った山崎の背中を見送ったら急に恥ずかしさに襲われた。




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