g.long
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物事の本質を見極めるということは、とても難しいことだと思う。
人間は誰もが独断と偏見を持っているものだから。
柔軟な感性とか、全てに公平である客観的視野を持つ人間。
それは私にとって理想の人間だけど、同時に、もしそんな人が実在したら尊敬通り超して恐怖の存在となるだろう。そんな人間有り得るはずがないけれど。
もしいるなら、仙人か何かだろうか。
完璧な客観性を持つ人間は、主観を放棄した者、つまり、自分の人生を生きていない、ただの世界の傍観者に過ぎないのだ。
「これは?」
土方さんに呼び出されて副長室を訪ねたあたしの前に雑誌が置かれた。
「雑誌ですね。働く女性をターゲットにしている大手出版社の主力雑誌です。内容の7割は流行のファッションについて。
‥それ、世代はいいとしても‥女性向けですよ?見てわかると思いますけど。‥土方さん、そんな趣味あったんですか?」
「切腹させられてぇのかコノヤロー」
「あたしには、隊規は適用されないと思いますが?」
だって、あたし入隊した覚えないし。
「そーか?これ見る限りじゃあ随分と馴染んでる様に見えるんだが」
土方さんが開いたページには隊士たちの笑顔が写っている。
「良く撮れたと思いません?」
「誰の許可取った」
「あたし、ちゃんと組のお手伝いしてますよ。そういう契約じゃないんですか?」
あたしはカメラマンだ。
歌舞伎町のイケメン警察官、土方十四郎を追って写真におさめ、週刊誌にちょこっと載ったりして世の中の女性に夢を与えていた。
始め土方さんは馬鹿にしたように、撮れるもんなら撮ってみろと言っていた。
言葉通り、土方さんを格好良く写すのは結構大変だった。
常に瞳孔開いてるし、なによりすぐに手が出る。さすがに部下を殴り付けるイケメンは、どんなに格好良くても雑誌には載せられない。あたしは意地になって土方さんを追いかけて、半ば戦場カメラマンのように彼の仕事‥つまり物騒な事件にも首を突っ込むようになっていった。
ただイケメンの写真を撮るためだけに、だ。
よく考えたら馬鹿だったよなぁ。
その結果、度胸を認めたとかなんだとか言ってあたしは土方さんの写真を撮る許可を得て。しかし、そのうちに何が起こったのか、拉致同然に連れて来られた真選組で監察として働かされている。
ちょっとくらい組の様子を撮ったって罰は当たらないと思う。
「お前は俺の写真を撮りたいんじゃなかったのか」
「だって彼らの笑顔とか、普段のワイワイした感じ、すごく良いなって思ったんですもん。
あ、もしかして、今回自分の写真が載らなかったのがお気に召さないんですか?」
土方さんて意外と目立ちたがりってかナルだったのか。すみません。
「‥‥マジでたたっ斬るぞ!?」
「じゃあ何が問題なんですか?
結構好評だったんですよ?おかげで週刊誌から有名ファッション誌に格上げになった上に、連載決まったくらいです」
「天下の真選組たる俺たちのこんな馬鹿面、世間に見せやがって。イメージってもんがあんだよ」
「ヤクザと同類の荒くれ警察ってそんなに守りたいイメージだったんですか?
しかも、普段報道される情けないニュースでわかってますから。世間はもう馬鹿面の写真くらい何とも思いませんよ。
それより‥あたしは、世間にもっと真選組の素顔を知ってほしいと思ったんです」
「俺たちには何のメリットもねぇ」
「ありますよ!
みんなが歌舞伎町が好きだってことも、ちゃんと街のこと守りたいって思ってることも、本当は正義感があるってことも!みんなに知ってもらわなきゃ、もったいないです!」
「いや、そんな風に言われると、まるでウチがただ街に迷惑なだけの荒くれ者に聞こえるんだけど」
「‥だから、そう思われてるんですってば」
「‥‥‥‥マジでか‥」
「あたしは、ここで組のお手伝いして、写真撮って、紹介したいです。組の良さも悪さも丸ごと全部。いけませんか?」
「出ていきたかったんじゃないのか?」
「ここにいても良いって言ってくれるなら、いたいです」
「‥‥わかった。
写真を撮るのは許可する。その代わり、監察の仕事をこなしてもらう。その契約は続行だ。
だが、仕事内容を漏らしたり機密を守らない場合はそれなりの覚悟を決めてもらうからな」
「はい。‥‥一つ聞いて良いですか?」
「なんだ」
「なんであたし、監察なんです?写真撮れるから?」
出来れば事務方がよかった。
「お前が気配消す天才だからだ。
ついでに素人だから殺気も出さねぇし、潜入先じゃあまず気がつかれねぇだろ。山崎より監察向いてるぜ」
「うわあ、嬉しくないなぁ」
「そういや、万が一もあるからな。一応護身術は叩き込んでやる。これから毎日道場に顔出せよ」
もっと嬉しくない!
でも、ここに残れたことは、嬉しいかな。
あたしも世間と一緒で、真選組には良いイメージなんかなかったし、正直怖かった。
ここにくるまでは。
第一印象が全てじゃない。
独断も偏見も全部捨て去って、
ありのままの良さも悪さも受け入れて。
あたしは、あたしの目で判断したいんだ。
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