r.short
背中に想うE
恋と愛の違いって、
なんだろうね。
でも、もし
その違いがあるとしたら
あなたは、きっと恋も愛も、
知らなかったでしょう?
そして。
いつしかあなたは恋をした。
あなたらしい、恋を見つけた。
あたしは
そんなあなたに、
ずっと、恋してた。
あなたの恋は
愛になったけど。
あたしの恋は、恋のまま
摘み取ることしか
出来なかった。
襲撃前日。
了平さんと雲雀が大人組の前夜祭という名目での会食中。
あたしと草壁さんはミルフィオーレの部隊の動きを捕らえた。
大部隊で街中を捜索していたのに、まるで大波の前兆のように街の中から引いていったのだ。
雲雀の作戦は成功する。
そう確信した。
「‥了平さん、帰ったの?」
「さすがに前夜だからね」
「そう‥」
「どうして入って来ないの」
あたしは、なんとなく恭弥の部屋に入りづらさを感じていたのだが、少なくとも恭弥はそれを望んでいるとわかったため、そっと部屋へ足を踏み入れた。
「珍しい。‥変化のない庭に興味なかったんじゃ?」
「君の真似だよ。」
あたしの定位置には恭弥がいた。
「何が面白いのかと思って。
‥僕にとっては全くもってつまらない」
「‥‥そうでしょうね」
とげを含ませて応えると、恭弥は窓辺を離れて畳に座り込んだ。
「‥‥‥そろそろよ」
「ふーん。楽しみだね」
「馬鹿」
「噛み殺されたいの?」
あたしは応えないまま、彼の側へ向かい、彼の背に背中を預けて座り込んだ。
寄り掛かった背中は微動だにしなくて、思ったよりも広くて温かかった。
「‥‥‥‥何のつもり」
「ここは、あたしの居場所かな?」
逞しい背中は、雲雀の強さを思わせる。
‥こんなにも、違うのね。
「‥だったらどうなの」
「失いたくない」
「君は、全く馬鹿だ」
「知ってるわ」
それから、しばらくの沈黙が部屋に流れた。
無言のまま、雲雀の背中は変わらずあたしを支えてくれたし、
それは彼とあたしの関係性そのもののように思えた。
ここが、あたしの居場所だ。
心地良さにそう確信した時、
珍しく雲雀から口を開いのだ。
「覚えているか」
背中越しに柔らかく響く、穏やかな問い掛けだった。
「沢田が10代目に正式に就任した時、僕は君に風紀財団へ来るようにと言った」
「‥言ったっていうか、あれは脅しって言うのよ、普通は」
『君、ボンゴレから風紀財団へ異動になったから。歓迎するよ。
‥何か異論でも?僕に沢田の守護者でいて欲しいなら異論なんかないだろうけど、一応あるなら赤ん坊に直接言言うんだね』
またか、と思った。
雲雀は風紀委員へ入れだの、幻術について教えろだの、事あるごとにあたしがリボーンさんから雲の守護者を任されているのを盾にしてきたから。
この時も、あたしは半ば呆れながらも了承しようとしていた。
『沢田も赤ん坊も快諾したよ』
あたしは、動けなくなった。
雲雀はそんなあたしを見て面白そうに、『だから、これはボスの命令ってわけだ』と。それだけを言って部屋を出て行ったのだ。
それから、あたしは風紀財団に所属している。
別に不満はない。結局、立場が変わっただけで何も変わらなかったし。あたしは変わらずボンゴレとの連絡係で、術士。それだけ。
強いて言えば、雲雀と過ごす時間が増えたくらいのものだった。
不満なんかはじめから無いんだ。だってあたしは、あの時確かに了承しようとしていたのだから。
「君の異動の話を赤ん坊達につけに行った時、彼らは、本当は了承なんかしなかったんだ」
「‥え?‥」
「この際だ。
あの時のことを教えてあげようか」
あたしは、
少しだけ混乱している。
何故、恭弥が今、こんな話をしているのだろう。
果たして、これはあたし達に必要なのだろうか。
あたし達は、恋愛ごっこをするつもりはないのだ。
そんなお遊びで共にいるわけじゃない。
「‥‥‥恭、弥?」
「幸い、まだ時間はある。
‥沢田綱吉からの伝言もあるからね」
そして、雲雀は話し始めた。
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