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短編
8


俺の腕にすっぽりと収まってしまう細い身体。白い首筋。肩口に顔を埋めると、アキの匂いが強くなる。

その全てが愛おしい。

「……皿、洗えないだろ」
「ごめん……」

また殴られるかと思ったけど、アキは諦めたようにじっとしていた。

抵抗されないのを良いことに、俺はそのあったかい身体を強く抱き締める。
こうしないとアキがどこかに行っちゃいそうで、離れていきそうで恐いから。

(ああ、俺って本当にヘタレだ……)

撮影の時みたいに、アキを俺だけのモノにできたら良いのに。

「……お前さ、中身はともかく顔は格好良いんだから、付き合いたいって言う女の子とかたくさんいるだろ。何で俺なんか……」

しばらくそうしていると、アキがぼそりと呟いた。顔は見えないけど、本当に分からないって感じだ。

「アキだから好きなんだ」

抱き締める腕に力を込める。

始めは、ただ可愛いと思った。嫌々行ったスタジオで、熱に侵されたアキを見て。
でも何回か会ううちに、愛しくて愛しくてどうしようもなくなって。どんな所が好きとか、はっきり言えない。でも好きなんだ。

「しっかり者な所とか、怒りっぽいけど本当は優しい所とか、強がりな所とか、全部好き。アキだから強い所も弱い所も全部愛しく感じる」
「っ、俺は……」
「良いんだ、今は一緒にいられるだけで」

俺はズルい。そんなこと言われても、アキは困るだけなのに。

「お前は…ヘタレだし、ベタベタ鬱陶しいし、正直顔だけの奴だっていつも思うけど……」

う…良く言われるけど好きな人に言われたら余計にへこむ…でも、本当のことだし……。

「……アニメ」
「え?」
「お前が出てるアニメ、この前一回見た」

ずーんって気分が急降下していく中で、アキがぼそぼそと喋りだす。

「結構格好良いなって思って、ちゃんと仕事してるんだなって…ちょっと見直した、かも」
「アキ…」

アキの身体がさっきよりも熱い。相変わらず顔は見えないけど、耳が真っ赤だった。

「それに……」
「え、何?」

小さく呟いて、でも聞き取れなかった俺はアキの顔を覗き込もうとする。

「なっ、何でもねぇよ!ってか近い!いい加減離れろ!」
「え、もうちょっと…」
「ていうか飯食ったんだからさっさと帰れよ!」
「ええっ、さっきゆっくりしていけって…」
「うっさいうっさい!」

この後、俺は本当に家から叩き出されてしまって、結局アキが何を言ったのか分からなかった。


*END*

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