短編
7
そうしているうちにだんだん良い匂いがしてきて、ご飯が出来上がる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
「うわぁ…!」
アキが運んできた料理に感嘆の声を上げる。
今日の献立は鶏肉の照り焼きに野菜炒め、ご飯、味噌汁。すごく良い匂い。美味しそう……。
「味は保証しないからな」
ぶっきらぼうに言いながらコップにお茶を注いでくれるアキ。
「いただきます」ってきちんと手を合わせて、まず鶏肉を口に運んだ。
「美味しい!」
目を輝かせて、今度は野菜炒めに箸を伸ばす。一緒に炊きたてのご飯を食べて、お味噌汁をすすった。
「すごいよアキ!どれもめちゃくちゃ美味しい!」
「そんな、大したモンじゃ……」
「ううん、ホントすごいよ」
俺なんて何も作れないし、他の家事もろくにできない。それをアキは全部一人でやってるんだ。
「それに、アキがご飯を作ってくれた、っていうのがすごく嬉しい」
「なっ、お前のために作ったわけじゃ…」
にっこり笑って言うと、アキは顔を赤くしてご飯をばくばく食べ始めた。
アキが照れてる……ほんとに可愛いなぁ。
それから、俺は最高に幸せな気分でご飯を全部平らげた。
***
アキの手料理を堪能した後、二人でテレビを見ながらゆっくりお茶タイム。
(し、幸せだ……)
もう俺はこのままどうにかなってしまうかもしれない。
「さって、皿洗うか」
空になったお茶のコップを持ってアキが立ち上がる。すっかり寛いでいた俺はハッとしてその背中に声をかけた。
「あっ、俺がするよ!作ってくれたお礼に!」
「えー、お前に任せたら皿割りそうで不安なんだけど」
「うっ…」
疑わしそうな目を向けるアキに、言葉を詰まらせる。
「皿洗ったことあるのかよ?」
「あ、あるよ!……何回か」
「………」
うぅ…やっぱり俺じゃ不安なんだ……。少しでも役に立てればって思ったんだけど……。
ガックリとうなだれると、頭をぽんぽんと叩かれた。びっくりして顔を上げたら、俺の頭に手を伸ばしているアキの姿が。
「まぁ一応客なんだし、ゆっくりしてけば」
口調はいつものように素っ気ないけど、その表情は笑っていて。
「うわっ!」
気が付いたら、台所に向かおうとしていたアキの背中に抱き付いていた。
「っ、おい!何もしないって…」
「うん、これ以上はしない。お願い、少しだけこうさせて」
焦ったように暴れるアキに耳元でそう返すと、華奢な身体がびくって震えた。
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