短編
6
「だぁーっ!分かったからいちいち泣きそうな顔すんなこのヘタレ!」
「え、じゃあ……」
パッと顔を上げた俺にくるりと背を向けて、アキがぼそっと呟いた。
「……変なことしたら、速攻で叩き出すからな」
「…!うん!」
照れ隠しなのか、ちょっと怒ったように言うアキに、俺は大喜びで付いていった。
アキは、本当は誰よりも優しい。
俺は、その優しさに甘えてるんだ。
***
「言っとくけど、大したモンは作れねーから」
「ううん、アキの作るご飯なら何でも良い」
アキの家へ行く前に、駅前のスーパーで晩ご飯の材料を買って帰ることになった。
ちなみに材料費は割り勘。ご馳走になるんだから、本当は俺が全部払いたかったけど、アキはそれじゃ納得いかないらしい。
買い物かごを持った俺はすごく上機嫌だ。アキと一緒にいられる上に、家に遊びにいけるなんて。それにアキの手料理まで。これってまるで……。
「……何だよ、ニヤニヤして」
「だって、嬉しくて」
野菜を選んでいたアキが怪訝な顔をする。思わずへらっとだらしなく笑ってしまった。
「何か俺達、新婚さんみたいじゃない?」
「離れろ。そして今すぐ帰れ」
買い物かごをひったくって、すたすたと歩きだすアキ。
「う、嘘だよ!謝るから待って!」
うぅ、ちょっとしたジョークだったのに……。
***
「………」
「………」
「……なぁ」
「うん?」
「確かに大人しくしてろって言ったけど……」
キッチンに立って野菜を切っていたアキが居心地悪そうにこっちを見る。
(ああ、本当に新婚さんみたいだ……)
さっきみたいに怒られそうだから言わないけど。
初めてやってきたアキの家は、駅からそんなに遠くない所にあるアパートだった。
中は必要最低限の物しか置いてなくて、すっきりとしている。さっぱりした性格のアキらしい部屋だ。
ぜひとも隅々まで鑑賞したいところだけど、アキに「大人しくしとけよ」と言われたので止めておいた。今はアキの家に来れただけで幸せだから。
うきうきしながらリビングのテーブルの前に座って、料理しているアキの後ろ姿を飽きることなく眺めていた。
そしたらアキにジト目で睨まれた。
「……そんなに見られたら作りづらいんだけど」
「だって、アキのことずっとでも見ときたいんだもん」
「なっ…」
嫌そうに言うアキに正直に答えると、アキは目を見開いた後そっぽを向いてしまった。あれ、俺何か変なこと言ったかな?
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