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短編
1


「春輝(ハルキ)……俺、彼女が出来たんだ」

一瞬、何を言われたのか分からなかった。

照れたように、ちょっとはにかみながら言う歩(アユム)。そんな幼なじみを目の前にして、俺は……。


***


ドンッ

「うわっ!」

不意を突いて細い肩を押してやると、歩は呆気なくベッドの上に倒れ込んだ。何が起こったのか分からないようで、呆然と天井を見上げている。

起き上がられる前にベッドに乗り上げて、用意しておいた紐で彼の両腕をキツく縛った。

「痛っ…!な、何するんだよ春輝!」
「何って……歩が悪いんだよ?」
「え……」

戸惑ったように見上げてくる歩に、俺はにっこりと笑ってやった。


***


歩とは幼なじみで、家が近所だから物心ついた時から一緒にいた。それこそ幼稚園から小、中、高等学校……現在の大学にいたるまでずっと。
さすがにクラスは違ったけど、登下校するのも遊ぶのも一緒。いつも俺の隣には歩がいた。

特に目立つ要素のない平凡な容姿。でも、笑ったり怒ったりする表情は可愛くて、俺には特別に感じられた。

そんな彼に友達以上の感情を抱き始めたのは中学に上がってから。
歩が愛しくて愛しくて堪らない。
男同士だし、拒絶されるのが怖くて、その想いはずっと胸にしまっていた。

側にいられるだけで良い……そう思って。

でも今日、大学からの帰りに突然彼の口から告げられた彼女の存在。

頭の中が真っ白になった。

『……春輝?どうかした?』

歩が不思議そうに顔を覗き込んでくる。自分の心臓の音がやけにうるさい。

『……ああ、何でもない。びっくりしただけ。歩に彼女ができるなんて思わなかったから』
『失礼だな。自分がモテるからって』

咄嗟にそう答えると、歩は拗ねたように唇を尖らせた。

歩とは対照的に、他人いわく整った容姿を持つ俺は昔から良くモテたし告白もされた。
でも、そんなことはどうでも良かったんだ。今まで誰かと付き合ったことなんて一度もない。
だって俺が好きなのは歩だから。歩しかいらない。他の奴なんか興味ない。

歩が誰かと話すのを見るたびに嫉妬した。誰かに笑いかけるたびに怒りが湧いた。

(俺以外の奴と話したり、触れたりするな)

いっそのこと、歩を監禁して自分だけのモノにしてしまいたかった。
でも、もちろんそんなことは出来ない。我慢するしかなかった。側にいられれば良いとずっと自分に言い聞かせてきたんだ。

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