短編 9 その時、 「えっ…!?」 酷く驚いたような男の声が、誰もいないはずのスタジオに響いた。声のした方……扉から人の気配を感じる。 (み、見られてる…?) 恥ずかしい。下半身は丸出しで、しかも白濁やいろんな液体で汚れている。今さらだけど、知らない人間にそんな姿を見られたくない。 いたたまれなくなって背中を向けると、そいつは我に返ったのかこっちに近付いてきた。足音が俺のすぐ側で止まる。 「き、きみ…大丈夫っ?」 「んぅっ!?」 突然肩をつかまれてびくりとした。驚いたんじゃなくて、媚薬の効いた身体にはそれだけで感じてしまうからだ。 (や、だっ…!) さっきまで感じていた、見えない状態で知らない奴に触られる恐怖。 恐くてがむしゃらに身体を振ると、そいつはにわかに慌てだした。 「ん、むぅーっ!」 「わっ、落ち着いて!今外してあげるから!」 後頭部に手が回されて、口を塞いでいた布を解かれる。新鮮な空気が一気に入り込んできて、少しむせてしまった。 「けほっ、けほっ…!はぁっ…や、触んなっ!誰だよお前っ!」 「えっ、あっ…」 誰だか知らないけど、ここにいるってことは会社の人間に違いない。もうさっきみたいに身体を好き勝手弄ばれるのは嫌だった。 泣き過ぎて擦れた声で、息も絶え絶えなのも構わずに叫ぶ。 「放せっ!ぁっ…どうせあいつらの、仲間なんだろっ!」 「あいつら?ち、違うよ!俺は君に酷いことしないから!」 「っ…!」 急に喚き出した俺を、そいつは宥めるように強く抱き締めた。耳元で話し掛けられて、ドキリと心臓が跳ねる。 喋り方は頼りないけど、低くて色っぽい声。今の俺には身体に響いてかなり毒だ。 けど、酷く落ち着く声音だった。 大人しくなった隙に目隠しを取られる。久しぶりの光に目が眩んで、すぐに開くことができない。 ゆっくりと目を開けると、目の前にかなり整った顔をした男がいた。 めちゃくちゃ格好良いけど頼りなさげに眉が下がっていて、何か気の弱そうな男だな、ってぼんやりと思う。 そいつは心配そうな顔をしていたけど、俺がじっと見つめると何故か動揺したように頬を赤らめた。 「あ……だ、大丈夫…?」 「なわけないだろ……も、やだっ…帰りたい……!」 無理やり連れてこられて、拘束されて、恥ずかしい目に遭わされて……もう限界だった。 ぐずぐず泣きだすと、そいつは慌てて縛られている手を解こうとする。 [*前へ][次へ#] |