短編 2 振り返った俺の顔を見て、チャラい方は「思った通り可愛いー」と笑みを深くしているし、真面目そうな方は「ほぅ……」と感心したように俺を見つめた。 ……何なんだこいつら。 「ああ、いきなりごめんねー。おじさんはこういう者だよー」 「そして私はこういう者です」 怪訝な顔をした俺に、二人はそれぞれ名刺を差し出してきた。 そこには『株式会社OM 代表取締役 小野村 悠介(オノムラ ユウスケ)』と『秘書 丸川 恵一(マルカワ ケイイチ)』の文字。 「会社の…社長、と……秘書?」 「そうそう」 嬉しそうに笑うチャラ男……もとい小野村という男に、俺は胡乱気な表情のままだ。だって、どこぞの社長が一般人の俺にいったい何の用があるんだよ。 どうせタチの悪いキャッチセールスだろうから、適当にあしらって…… 「いやー、今ちょうどゲイビデオのモデル…あっ、ゲイビデオっていうのは男同士のAVのことだよー。それに出演してくれる子を探してるところでさぁ、ぜひ君にやってもらいたいんだよねー」 「……は?」 思わずぽかんとしてしまう。今、何かとんでもないことを言われなかったか?あまりに軽い調子だったから、聞き間違いかと思ったんだけど……。 「社長…いきなりそんなことを言われて『はい喜んで』なんて答える人間はいないと思います」 「何言ってんのー?変に誤魔化したり曖昧に言ったりしたら余計に怪しまれるよー」 「いや、すでに充分怪しいですから」 目の前で呑気に会話をする二人。 固まった表情のまま動けないでいると、小野村がニコニコしながら顔を近付けてきた。 「ねぇ、どうかなー?君、可愛いしバカ売れ間違いなしだと思うんだー」 「ッ!え、遠慮します!」 聞き間違いじゃなかった! ゲイビデオとか冗談じゃない!それって男とせ、セックスするってことで……そういうのがあるのは知ってるけど、俺はノーマルだっての! 我に返って、慌ててその場から走りだした。 すぐ近くにあった店の角を曲がって後ろをうかがう。すると、あろうことかそいつらは俺の後を追ってきた。 「そう言わずにさー!ちょっと男の人に抱かれるだけで良いんだよー?」 「ッ、付いてくんなっ!」 「お礼は弾むよー!」 「嫌だっ!」 「始めはちょーっと痛いかもしれないけどだんだん気持ち良く」 「うわーっ!嫌だ嫌だっ!」 本気でやばい!俺は今かなり危険な状況にいるらしい。 建物の間を縫って必死に逃げても、二人は諦めずに付いてくる。 [*前へ][次へ#] |