短編
4
けど、俺に引っ付いていたヘタレ男は見事に期待を裏切ってくれた。
「二つ目の方が絶対に良いと思います!」
おい、今は俺に聞いてるんだろうが。
「あ、やっぱりそう思うー?いやぁ僕もアキ君が執事役をやればすごくうけると思ったんだよねー」
あれ、あんたも俺の意見は無視ですか?
「俺、アキに“ご主人様”って呼んでもらいたい……!」
「良いねぇー!そんでもって涙目でご奉仕なんかされちゃったら堪んないね!」
「ご奉仕…最高ですね……!」
俺を放っといてはしゃぐバカ二人。丸川さんが同情を込めた目でこっちを見ている。
俺、帰っても良いかな……。
***
配役を決めるだけという非常に適当な打ち合わせの後、やってきたのは衣裳に着替えるための部屋。
通称“衣裳箱”と呼ばれているこの部屋には、その名の通りいろんな服が置いてある。まぁほとんどがマニアックなもので、お約束のメイド服から一体何に使うのか着ぐるみまで。
「「あらぁ、アキ君いらっしゃい!」」
「どーも……」
そこにいたのは全く同じ顔をした双子の美人さん。黒髪ストレートの方が衣裳係の麗香(レイカ)さん、茶髪でウェブヘアーの方がメイク担当の麗奈(レイナ)さんだ。
ここにある衣裳は全部麗香さんの自信作。結構有名なファッションデザイナーらしいけど、本人はこういう服を作る方が好きみたいで、OM社のお抱えさんになっているみたいだ。
麗奈さんも似たようなメイクアップアーティストで、少年を美少女に化けさせるのが趣味らしい。
「今回は執事役をするんですって?」
「任せて!すっごく可愛くしてあげるから!」
そう言うなり、麗香さんは俺の服を素早く脱がせると(というか剥ぎ取られた)大量にある衣裳の中からいくつか抜き取って合わせ始めた。
スラックスにシャツ、ジャケットに合う色のネクタイを順番に着せられていく。
最終的に数種類の衣装の中から選ばれた一着を着て、仕上げに真っ白な手袋をはめれば完璧な執事……のコスプレの完成だ。悲しい……。
「今度はこっちね」
続いて麗奈さんが俺を鏡の前に座らせて、髪をくりくりと摘んできた。
「まぁ、アキ君綺麗な顔してるからほとんど手ェ付けなくて良いんだけど」
そう言いながらメイクはせずに、普段は下ろしている長めの前髪をワックスで後ろや横に流して、執事っぽくセットされる。
「「素敵ッ!」」
出来上がった俺を見て女子高生みたいにはしゃぐ二人。
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