短編
3
一年くらい前、俺は小野村さんにスカウトされて(いや、アレは誘拐って言った方が正しいけど)強制的にビデオに出演させられた。
それから月に数回、こうして突然呼び出されては恥ずかしい写真や映像を撮られている。
「アキ君良く来てくれたねー。すっぽかされるんじゃないかと思って心配だったんだよー」
良く言うよ。俺が行かなかったら社員を使って無理矢理拉致させるくせに。もう完璧な犯罪だ。
始めはこんなバイト嫌で抵抗していたけど、逃げても隠れてもすぐに捕まえられて無駄だったので、今では半ば諦めていたりする。
けど、間違っても好きでこんなバイトしてるわけじゃないからな。
「じゃあ役者も揃ったし、時間もないからそろそろ始めようかー」
小野村さんがにっこりと笑って言った。
もう腹を括るしかないみたいだ。
***
「今回は“ご主人様と執事”の“主従”モノにしようと思うんだー」
控え室にあるソファーに座って打ち合わせ中。でも何故か俺はリョウの膝の上に乗せられている。
「主従…良いですね……」
リョウが俺に抱き付きながらうっとりと呟いた。ウザいったらないけど、もういつものことなので無視。
「でも、まだどっちをご主人様にするか執事にするか迷ってるんだよねー。だから二人に決めてもらおうと思って」
ちなみに脚本、演出、監督は全て社長の小野村さんがする。
小野村さんといい丸川さんといい、小さなこの会社では働いている人数も少なくて、皆一人で何役もこなしているらしい。それで大儲けしているんだから感心する。
それにしても今回は主従か……。
バイトを始めた当初は甘々の恋人同士っていう設定が多かった。けどその内容はだんだんマニアックになっていって、最近では玩具を使われるのは当たり前だし、“教師と生徒”とか“お医者さん”とか妙なコスプレばっかりさせられている。この前なんか猫耳付けられてマジでぶちギレそうになった。
それに比べれば今回はまだマシだよな……嫌だけど。
「イメージとしては“生意気で我が儘な社長令息にお仕置きする腹黒執事”か“ドジで出来の悪い新米執事を調教する鬼畜ご主人様”なんだけど……アキ君どっちが良い?」
どっちも嫌だよ。何だそのベタな設定。何もしないでこのまま帰るっていう選択肢は……まぁ、ないだろうな。
でもどちらかと言えば前者の方がマシ、かな。リョウは中身はともかく顔は良いし、執事姿もさぞや似合うだろう。
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