櫻井家の食卓
1
深夜の半ばを過ぎた時刻。夜明けにはまだ少し早く、辺りに明かりのついた家は一件もない。
そんな中、周りと同じくしんと静まり返った櫻井家のドアを開ける人間がいた。中に入って、まっすぐ二階へと向かう一つの影。
「あー、眠ィ……」
気怠そうに呟かれた声はまだ若い男のもの。
二階の自室に入ろうとして、その隣の部屋のドアが少し開いていることに気付く。
不審に思って中を覗いてみると、真っ暗な部屋のベッドにはこの部屋の持ち主はいなかった。代わりに一匹の黒猫がベッドの真ん中を占領して、丸まって寝ている。
「………」
その人物はドアを閉めると、さらに隣の部屋の前に立った。音を立てないようにそっとドアを開ける。
中はやはり真っ暗で、ベッドにはその部屋の主がいた。
そして、その主に抱き抱えられるようにして眠っているのは隣の部屋の主。
「……………」
その人物はしばらくその光景をじっと見つめていた。
……非常に険しい表情で。
日常茶飯事(後編)
ああ、今日も良い天気だなぁ……俺の気分は最悪だけど。
それもこれも、全部あの馬鹿兄貴のせいだ……!
***
朝、目が覚めると太陽はとっくに昇って辺りは明るくなっていて。
「だるい……」
俺は腰の鈍い痛みで目覚めるという非常に不快な朝を迎えた。
(んー…寝違えたのかな……?)
腰をさすりながらぼんやり考えていると、突然頭上から降ってくる低音ボイス。
「起きたのか、文弥」
「うわっ!」
驚いて飛び起きると(いてて腰痛ッ!)、ベッドの側に和兄が立っていた。落ち着いた色合いの服装で、今日も隙のない男前。
俺の部屋に何の用だろうと考えて、ふと気が付く。
(ここ、和兄の部屋だ……)
そうだ俺、昨日和兄に……思い出したら一瞬で顔が熱くなった。
「どうした?耳まで真っ赤にして」
「なっ、誰のせいだと思って…!昨日は何てことしてくれたんだよ!」
「昨日?ああ……風呂で綺麗にして処理までしたやった。俺の優しさに感謝するんだな」
「誰がするかーっ!」
確かに身体は綺麗になっているし、ちゃんとパジャマも着ている。でも、そんなところに優しさを使うくらいなら始めからあんなことするなよ!
「……気絶するくらい気持ち良かったくせに」
「……っ!」
咄嗟に反論できない俺にニヤリと笑うと、和兄は鞄を手に取ってさっさとドアへ向かった。
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