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櫻井家の食卓
9


「あー…何て言ったら良いか……」
「素人が書いたにしては良い出来だろー?いやぁ我ながら渾身の一作だと思っ」
「良いわけあるかぁーっ!」
「うわっ!落ち着けって文弥!」

隣に座っていた友人……文弥がついにキレた。手にした携帯を握り潰さんばかりの勢いだ。何とか宥めようとするけど……無理だなこれは。

「悠仁(ユウジ)!お前何勝手に俺で妄想してるんだよ!そして実名を使うな!」
「えー」
「えーじゃない!」

文弥が物凄い剣幕で怒鳴っても、目の前にいる友人……悠仁(ユウジ)はヘラヘラと笑ったままだ。

コイツは俺達の中学時代の友人で、現在は人里離れた全寮制のお坊ちゃん学校に通っている。普段は目立たない奴なんだけど……。

「だってこの前獣姦モノのBL小説呼んでたら保智と多摩の文弥大好きぶりを思い出してさぁ、妄想したら止まらなくなったんだよ。あ、俺的には完全な獣攻めよりも半分擬人化した方が好きだから!コスプレも良いけど本物の獣耳と尻尾には勝てな」
「はいはい、分かったから日本語喋ろうな」

……男同士がイチャイチャする話になると別人になるんだよな。良く分かんねーけど“腐男子”?ってやつらしい。

コイツが通っている学校も男子校だから、そういう話もごろごろ転がっているわけで……長期休暇で地元に帰ってきては、今みたいに家に来て俺達に学校生活を嫌と言うほど熱く語っていく。

「でもさ、いくらBLが好きだからってBL小説家になれるわけじゃないんだよな。うーん文章書くのって本当に難しい」
「人の話を聞けーっ!」
「次は翔×文弥の幼なじみカプで挑戦しようと思ってるから楽しみにしてて!」
「だぁぁぁっ!止めろーっ!」
「っ、保智!ご主人様がご乱心だ!何とかしろ!」
「わんっ」
「ぎゃあっ!保智止めっ……!」

俺は部屋の隅で構ってほしそうにしていた保智にすぐさま命令した。遊んでもらえると思ったのか、保智は嬉しそうに文弥に飛び付いていく。保智の重さに耐え切れずソファーに沈む文弥。

これでしばらくは大丈夫だろ……俺は文弥を保智に任せると、それをニヤニヤしながら見ていた悠仁に身体を向けた。ゴホン、と一つ咳払いをする。

「夏休みの間はこっちにいるんだろ?」
「うーん……いや、少ししたら寮に戻ると思う」
「は?何でわざわざ……」
「いろいろありまして」
「……まぁ、良いけど。それより、今言ったの絶対に書くなよ」
「翔と文弥のラブストーリー?何で?」
「そんなモンが文弥の兄弟に知れてみろ。俺の命がない」
「ああ、なるほど!いやー兄弟モノも萌えるなぁ!」
「はぁ……」

駄目だこりゃ……俺は諦めて肩を落とした。そろそろ文弥を助けてやらないとな。


……夏休みはまだ始まったばかりだ。


*End*

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