櫻井家の食卓
3
「え、何で…ソレ、保智の……?」
「わんっ」
そう、青年の首にあるのは間違いなく保智の首輪でした。
保智という名前を口に出すと、青年は嬉しそうに返事をします。
「俺、ちゃんと留守番してたよ!偉い?」
「……………」
唖然とする文弥。もしかして、いやでもまさか…そんなことあるはずが……そんな言葉が頭の中をぐるぐると回ります。
やがて驚いた表情のままゆっくりと後退りをして、震える手で青年を指差しました。
「ぽ…保智……?」
「わんっ」
なんと、この不法侵入した上に獣の耳と尻尾を生やした不審人物は、あの保智だと言うのです。
まさかこんな、非現実的なことが本当に起こり得るのでしょうか。
「はは、なーんだ誰かに似てると思ったら保智だったんだ。納得納得……………って、えぇーっ!?」
今度は文弥の絶叫が響き渡る番でした。
***
「……まだ信じられないんだけど……」
リビングのソファーに腰を下ろした文弥がため息を吐きました。
ひとしきり驚いた後、取り敢えず落ち着こうとソファーに座ったのは良いものの、自称保智と名乗る獣耳青年はさっきからずっと文弥にべったりとくっついています。
「……本当に保智なんだよな?」
「わんっ」
「や、それは分かったから…でも、何で急にそんな姿に……?」
「うー、俺も分かんない」
保智がむーと顔をしかめます。甘えたなところや表情がコロコロと変わるところは犬の時と同じのようです。
「んーとね、昨日夢でフミヤさんが可愛くて、でも寂しかったんだ。あっ、泣いてないよ?けど人間になれたらなぁって……で、朝起きてぐぃーんてしたら人間だった」
「うんごめん俺も分かんない」
やっぱり保智は人間になっても保智のままのようです。そんなおバカなところも可愛いですけどね。
「はぁー、でも犬が人間になるとか…現実にはあり得ない話だよな……夢だったりして」
現実を受け入れましょうよ。それもこれも全ては読者サービs
「しかも耳と尻尾はそのままなんて、まだ完全に人間になるならともかく……何でそんな中途半端なんだ……」
それは作者の趣味と言いますか……いや、これも全ては萌のたm
「はぁー……」
「フミヤさん…俺が人間だったらイヤ……?」
「え?」
文弥が一人で悶々と悩んでいると、不安になった保智が何とも情けない表情で見つめてきました。
「俺、ずっとこうしてフミヤさんとお話ししたかったんだ」
「保智……」
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