櫻井家の食卓 1 とある櫻井さんのお宅に、保智(ポチ)というそれはそれは可愛らしいわんちゃんがいました。 サラサラの毛に愛くるしい瞳、真っ赤な首輪を付けたゴールデンレトリバーです。ちなみにオスです。 そんな保智には、どうしても叶えたい夢がありました。 星に願いを 時刻は深夜一時過ぎ。辺りは真っ暗で静まり返っており、活動するにはまだ早い時間です。 櫻井さん家ももちろん例外ではなくて、そこに住む保智は薄暗いリビングの隅にある自分専用のマットの上で丸くなり、スヤスヤと眠っていました。 (んん…フミヤさん……) マットに顔を擦り付けて、実に幸せそうな寝顔の彼。大好きなご主人様の夢でも見ているのでしょうか。 (ああ、フミヤさん…可愛い……あっ、そんな…それは反則っ……!) 保智は明るくて優しいご主人様にメロメロですから、きっと仲良く遊んでいる夢…… (くぅっ!ダメだよ、そんなに締め付けたらまたイッちゃう……!) ……ではなさそうですね。決して微笑ましいものではないと思います。 というか夢の中で快感って得られるんでしょうか。 「……ゥ?ウゥ……?」 おや、保智が目を覚ましたようです。 (何だ、夢かぁ……) 途端にしょぼんとしてしまいました。でも息子さんは先ほどの夢で元気になったままです。 (ああ…俺が人間だったら、フミヤさんとお話ししたり、いろんなことができるのに……) 実は今日、家には保智と黒猫の多摩しかいません。何故ならこの家の長男は大学の合宿、三男は夜遊び、そして次男の文弥は「週末だし和兄も拓海もいないなら」と友人の家に泊まりに行ってしまったのです。 保智は大好きなご主人様がいない寂しさのあまり、あんな夢を見てしまったのでしょう。 まぁ、彼の場合はいつも妄想を膨らませていますから、夢に見るのは日常茶飯事ですが。 (でも、俺はただの犬だし…そんなことできるわけないよな……) 保智はスンッと鼻を鳴らすと、またマットに顔を埋めてしまいました。 (ああ…一度だけでいいから、人間になりたいなぁ……) 夜空に輝いているであろう星にお願いをしながら、そして大好きなご主人様のことを想いながら、保智はもう一度眠りについたのでした。 *** 朝になりました。今日もとても良い天気です。 「ふわぁー……」 マットからのっそりと起き上がって、うーんと伸びをする彼。おやおや、何かが変ですよ? [次へ#] |