櫻井家の食卓
4
「和兄ぃー、ちょっと良い?」
ノックをして部屋に入ると、和兄は机に参考書を広げて勉強中だった。こうして見ると優等生なんだけどなぁ……。
「あ、ごめん…邪魔した?」
「いや、もう終わるところだった」
和兄はぱたんと参考書を閉じると、座ったままこっちに顔を向けた。そして何故か俺の姿をまじまじと見つめてくる。
「……その格好、誘ってるのか?」
「は?」
誘うって何だよ。パジャマ着てるだけじゃん。
「まぁ良いか。で、何の用だ?」
「はい、これ」
渡された手紙を和兄に差し出す。
「……何だ、それ」
途端に、和兄の眉間に皺が寄った。う、恐いなぁ……。
いつも手紙とかプレゼントとか貰うと機嫌が悪くなるんだよな。理由は面倒だから、らしい。
「見れば分かるだろ。和兄に渡してくれって頼まれ……」
「いらない。捨てとけよ」
おい、即答かよ。
「ちょっ…せっかく貰ったのに!読むくらいしろよ!」
「顔も分からない奴に好きだの何だの言われたって迷惑なだけだ」
そりゃそうかもしれないけど。でも、あの子必死だったし!
「だいたい、お前に頼むのが気に入らない」
「はぁ?何だよそれ」
「とにかく、そんなモノ読むくらいなら参考書を読んだ方がマシだ」
「なっ……!」
カチンときた。いくら何でも酷すぎる。だから咄嗟に言ってしまった。
「このバカ兄!せめて読んであげるのが礼儀だろ!」
「……ほーぅ。いつから俺に意見するようになったんだ?」
「あ……」
いつの間にか和兄は立ち上がっていて、俺のすぐ目の前にいた。
やば……本気で怒ってる。顔が、顔が恐い!
「あ、ははは……ちょっと生意気言い過ぎたかな……もしあの子に会ったら手紙は返しとくから……じゃ、おやすみー」
何かされる前にくるりと向きを変えて、部屋から退散しようとする。
けど……。
ガシッ!
……考えてみれば、俺がこの兄から逃げられるはずないよな……。
つかまれた腕が痛い。恐くて後ろが見られない。
身体を竦ませた俺の耳元で、和兄はたった一言。
「……仕置きだな、文弥」
ああ……終わったな、俺。
そう思った瞬間、視界がぐるりと回った。
「わぁっ!」
とっさに目を瞑ったけど、背中に感じたのは柔らかい触感。どうやらベッドに投げ飛ばされたらしい。
起き上がろうとすると、乗り上がってきた和兄が俺の両腕を頭上で押さえ付けて、どこから取り出したのかネクタイで縛り上げた。仕上げに余った部分でベッドヘッドに繋がれて、身動きが取れなくなる。
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