櫻井家の食卓
1
「……この問題は?」
「っ、ふ…ぁっ…さ、3x……?」
「違う。不正解」
「ひっ、ぁぁっ!ぁぁぅっ!」
「じゃあ次」
「ぁっ…か、かずにっ…も、むり……っ!」
「駄目だ。早くしろ」
「っ、ゃぁぁ……!」
……何でこんなことになったんだっけ?
ことの始まりは、約一時間前にさかのぼる。
家庭教師とトライ
日差しが徐々に強くなり始める五月中旬。
来週は高校二年生になって初めての中間テストがある。しかも初っぱなから俺の一番苦手な数学。
さっきから教科書と問題集を交互に睨んでるけど全く分からない。基本的なことは授業で何となく理解できる。でも、いざ自分で応用問題を解こうとするとさっぱりだ。
(仕方ない。和兄に聞こう)
俺は問題集とノート、筆記用具を片手に持って、隣の部屋へ向かった。
「和兄ィー、今暇ー?」
分からないなら学校の先生に聞けば良いんだけど、放課後は夕飯を作るからすぐに帰らないといけない。なので今日みたいな休日に、身近にいる勉強ができる人物に頼むしかない。
二つ年上の和兄は驚くほど頭が良いから、俺はしょっちゅう勉強を教えてもらっている。
ドアをノックして中に入ると、和兄は椅子に座って本を読んでいた。
「どうした」
見ていて思わずため息が出るほど整った顔がこちらを向く。外では不気味なくらい愛想の良い和兄は、家では無表情でクールだ。ついでに鬼畜で変態だ。
「あー、勉強教えてほしいんだけど……」
「数学か」
「っ、そうです……」
良くお分かりで。和兄に教えてもらうのはいつも数学か理科だからなぁ……。
「見せてみろ」
読書中だったから断られるかと思ったけど、和兄はあっさりと了承して本をぱたんと閉じた。
***
「……で、これで答えが出る。分かったか?」
「んー、なんとか」
二人並んで床に座って、背の低い机に問題集とノートを広げて勉強中。
和兄の説明は凄く分かりやすい。やっぱり頭のできが違うんだろうなぁ……というか、見た目が良くて勉強もできるなんて不公平だ。まぁ、性格は難ありだけど。
「あと何処が分からないんだ」
和兄が問題集をパラパラとめくりながら言った。俺は分からない所を順番に指差していく。
「えーっと、これとこれと、この章と……あとここの……」
「ほぼ全部だな」
「う、はい……」
まぁ、その通りなんだけど……痛い所を突かれてがっくりと項垂れた。
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