櫻井家の食卓
2
保智を一撫でしてから靴を脱いで、荷物を持ってリビングへ向かうと、中からは誰かの話し声が聞こえてきた。
(電話中……?)
中に入ると、受話器を片手に話しをしている人物が一人。
(和兄、帰ってたんだ)
そこには、ラブレターの宛先人がいた。
紹介しましょう。兄の和寛(カズヒロ)といいます。
さらさらの黒髪に切れ長の瞳、ノンフレームの眼鏡が知的な印象を与える、男の俺から見ても超が付くほどの男前。身長も高くてモデルみたいにスタイルも良い。
ついでに頭も良くて、現在有名な国立大学の一回生。
性格も真面目で礼儀正しくて……だから和兄はかなり女の子にモテる。今日みたいに全然知らない子からラブレターを渡されることも良くあるんだよな。
「……ああ、でも…やっぱり俺は遠慮しておくよ」
電話の相手は大学の友達かな?耳に心地良い低い声音と、落ち着いた話し方。整った横顔を見ると、女の子が一瞬で惚れるのも分かる。
どこをどう見ても完璧な自慢の兄。
「……分かった。悪いな、せっかく誘ってくれたのに。……いや、ありがとう。じゃあまた」
の、はずなんだけど……。
ガチャン。
「……チッ、鬱陶しい」
……うん。何かさっきと全然雰囲気が違うんですけど。っていうか舌打ちしたよね。
不機嫌そうに眉を寄せて、これ以上ないほど目付きが悪くなっている和兄。そして全身から出ているどす黒いオーラが恐い。
「何度も言わせやがって。俺がそんなくだらない場所に行くわけないだろう」
おい、キャラ変わってるぞ。
……まぁ、あれだ。和兄は俗に言う“猫かぶり”というやつで……外では真面目な優等生だけど、家ではいつもこんな感じ。
「……ん?」
和兄が俺に気付いたみたいだ。さっきまでの優等生振りはどこへ行ったのやら。
とにかく、これが俺の兄貴だ。
うちは三人兄弟で、俺の下にもう一人弟がいるんだけど……。
「帰ったのか、文弥」
……うん、なんか目が合った瞬間ニヤッて笑った和兄が近付いてきたので末弟の話はまた今度にしよう。嫌な予感がするから俺はこのまま逃げ……。
「……おい、待て。何で逃げるんだ?」
「うわっ!」
……逃げられませんでした。
後ろから抱き付かれて身動きがとれない。しかも和兄は何故か俺の胸やら腰やら身体中を撫で回してくる。
「ちょっ…離せよ!つーかどこ触って…!」
「兄にお帰りの一言も言えないのか?」
「だって……んぁっ!?」
[*前へ][次へ#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!