櫻井家の食卓
4
「いつ帰ってきたんだよ?」
「あー、明け方?」
「お前なぁ、夜遊ぶのもほどほどにしろっていつも言ってるだろ。母さんにばれたらどうするんだ」
「はいはい、分かってるって」
拓海は適当に返事をして台所の方へ行ってしまった。ごぞごそと音がするから、多分冷蔵庫の中を漁ってるんだと思う。
そして俺の小言はまだ続く。
「だいたいもう中三なのに、勉強どころか学校にも行ってないし……」
「あ、俺兄貴の高校受けるから」
「ああそう……ええっ!?」
台所からの言葉を何気なく受け流しかけて、驚いて拓海の方を見た。
「俺の学校ってお前……自慢じゃないけど、一応進学校なんだぞ?」
「いや、兄貴は謙虚過ぎ。もっと自慢しろよ。俺なんか今まで一度も勉強したことねェし」
いや、それは自慢気に言うことじゃないだろ!
「だったら、尚更勉強しろよ」
「俺、コツコツするより直前に詰め込む方が向いてんだよ」
「まったく……」
ああ言えばこう言う……。
ため息をついてソファーに座り直すと、拓海が台所から戻ってきた。目当てのモノはあったのか……?
「……ところで兄貴、なんかあった?」
「え?」
「眼、ちょっと腫れてる」
「……っ!」
やばっ……昨日和兄のせいで泣きまくったからだ。
「こ、これは昨日夜更かしして……!」
和兄に抱かれたなんて言えるわけがない。
「ふーん……姿勢も変だぜ。腰痛めたのか?」
「ね、寝違えたんだ!」
「……………」
何とか誤魔化そうとするけど、拓海は感が鋭いからな……変に疑われる前に逃げよう。
そう思って腰を上げると、
「……兄貴、首にキスマーク付いてる」
「えっ!?」
嘘だろ!?キスされた覚えはないけど……もしかして気を失った後に?
確認しようにも首じゃ分からない。
洗面所に向かおうとして、
「ウソ」
「うわっ!」
背後に拓海の声が聞こえたかと思ったら抱き締められていた。
「ちょっ、何す」
「兄貴、アイツに抱かれたんだろ」
アイツとは和兄のことだ。拓海は俺のことは“兄貴”って呼ぶけど、和兄のことはなぜか“アイツ”とか“クソ兄”って言うんだよな。まぁ、ややこしくなくて良いんだけど。
……ってそんなこと言ってる場合じゃない!
「な、何のこと……」
「隠しても無駄だぜ。兄貴分かりやす過ぎ。つーか昨日アイツの部屋で一緒に寝てるとこ見たし」
「っ!」
身体がびくりと震える。見られてたなんて、そんなの誤魔化しようがない。
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