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櫻井家の食卓
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日常茶飯事(前編)


「あ、あのっ!櫻井君だよね…?これ…!」

金曜日の放課後。一週間分の疲れが溜まって身体は怠いけど、明日は休日だから何となく気分は高揚している。
そんな俺、櫻井 文弥(サクライ フミヤ)は親友の翔(カケル)と一緒に学校を後にした。

校門を出てすぐに、待ち伏せをしていたのか他校の女の子が差し出してきたのは一通の手紙。可愛いピンク色のそれを両手で持って、顔を真っ赤にしているときたら間違いなくラブレター……だよな。

「これ、お兄さんの和寛(カズヒロ)さんに渡して下さいっ!」

……うん。よくあるよな、こういうことって。

ぽかんとしている俺に手紙を押し付けると、その女の子は「きゃー!渡しちゃったー!」と叫んで走り去ってしまった。

仕方がないので手紙を鞄にしまう。すると、隣でずっと黙っていた翔がはぁ、とため息をついた。

「ん?どうかした?」
「いや別に……今の、篠宮女子の子じゃん。わざわざお前に頼まなくても、本人に直接渡せば良いのに」
「それができないから来たんだろ。それに、俺はこれくらい別に構わないし」

いつものことだし……そう言って再び歩きだすと、翔は何やらぶつぶつと呟きながら後ろをついてきた。

「……ほんっと、お人好しなのか鈍いのか……いや、両方だな。そんなモノ渡したらあの兄貴が黙っちゃいないだろうに……」

まぁ、何を言ったのかは聞こえなかったけど。


***


俺達の通う高校から家までは歩いて約二十分。翔とはご近所さんで、いつも一緒に登下校をする。

二人で近くの商店街に寄って、買い食いしたりゲーセンで遊んだりした後、スーパーで晩ご飯の材料を買って帰宅した。
うちは両親が共働きで多忙だから家に帰らないことが多い。そんな時ご飯の用意やら洗濯やら掃除やらは全部俺の仕事。まぁ、家事好きだから別に良いんだけど。

家に入ろうとして鞄から鍵を取り出す。でも開けようとしたドアはすでに開いていた。

(誰だろ……?)

金曜日はいつも俺が一番早く帰るのになぁ。

「ただいまー」

荷物を玄関に置くと、廊下の向こうからゴールデンレトリバーが尻尾を振って近付いてきた。

「ただいま、保智(ポチ)」

頭を撫でてやると、嬉しそうに顔を舐めてくる。

こいつは家族の一員の保智。オスだ。

保智の他に、家には黒猫の多摩(タマ)っていうのもいるんだけど、あいつは今頃その辺をのんびり散歩しているだろう。もしくはどこかで昼寝。

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