華の人 ◇ ※流血表現があります 『………チャン、ソク…』 マリーが龍城を呼んだ。『チャンソク』とは、龍城が『龍城』を名乗る前の名前だ。 『喋るな…!血が……』 龍城が慌てるが、マリーは小さく微笑み龍城の手を小さく握り返す。 『息子を…頼む………』 ルイも龍城を見て、マリーの言葉を引き受けるようにして言った。 ルイとマリーは1年前に子供が出来たばかり。二人は龍城に息子を頼む、とうわ言のように何回も何回も言った。 『分かっ、た…』 龍城は食い縛った歯の間から苦し気に頷いた。龍城も、二人はもうすぐ死ぬことを直感的に察したのだろう。龍城はそっと手を離して立ち上がった。 『息子……を……』 『あの子、のこと……』 まだ二人は呟いていた。もう、目も、耳も機能していないのだろう。龍城が立ち上がると二人の周りは大量の血が流れ出ていた。 龍城は二人の側から離れようと足を動かしたが、その時あることに気が付いた。 ルイとマリーの手が、固く繋がれていた。最後まで二人は深く愛し合っていることを見せつけられたようで、龍城は悲しげに笑いその場を後にした。 二人はもう動いていなかった───── *********** 龍城は一人、取り残された者として敵の中のリーダー格を探した。そいつを消す事が、『B』のボスとしてのルイの命令のような気がしたからだ。 パンッ! ドスッ!──パリンッ! 龍城の放つ銃声に刃物で切り裂かれる音……龍城は悠々と敵の中を歩き、攻撃される前に始末していった。 龍城の双黒の瞳はどんよりと陰っていた。 ************ 残りの敵は少ないのもあって潰すのに時間はかからなかった。しかし、龍城は多くのかすり傷を負っていた。流石に一人はキツイのだろう…… 龍城が中を縦横無尽にさ迷っている時、リーダー格と思われる男がいた。 男は龍城の存在に気付いていないのか、仲間と思われる奴らと話していた。 リーダー格の奴を含め、奴らは幹部ではないが、龍城がよく知っている奴が多かった。 『ボスの息子は見つかったのか?』 龍城は、その言葉に血の気がザッと引いた────。 『それが…どこに隠したのか中々見つかんねぇんだ。』 龍城は、その言葉に少しだけホッと息を着いた。だが、龍城は悩んだ。 ルイ達が最後に残した言葉を優先させるべきか…… それとも敵を先に潰してルイの息子を守るべきか…… 龍城はすぐに走り出した。敵の方ではなく、外の方に。奴らの事は息子の安全確保をしたあとにすればいい。 そう判断した龍城は『B』を飛び出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |