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story
青樹光
「調べて欲しい人がいるんです」
青樹光。
そう名乗る少女がひよこにそう持ちかけたのは1日前のことだった。

「・・・つまり、あなたはひよこに依頼があってきたんですね?」
「さっきからそう言ってるよー。・・・あれれ、安藤、今日なんかちょっと違うね。ふぉーまる?」
「ははっ何をいってるんだい?ひよこちゃん。俺はいつもの安藤じゃないか」
安藤は白いスーツ、胸ポケットに赤いバラというファッションでキザったらしくひよこに言った。
・・・いつもくたくたのTシャツにジーパンの安藤とは別人のようだ。
きまっているかは別として。

「あの、お二人はどういうご関係なんですか?」
青樹は二人を見比べながら言う。
「安藤はねーただの僕のおとなりさ「いやー、俺はこいつの兄みたいなもんでして。いつも面倒みてやってたんです。こいつのお客様は兄代わりの俺にとっても大切なお客様です。・・・だから、俺のことはいつでも頼りにしてくださいね」
ひよこの言葉に割り込んで安藤がぺらぺらと調子よく言う。
「わかりやすいやつだなー、安藤」
いつも仕事なんて手伝ってくんないくせに、とひよこがぼそっと言うのを、安藤が笑顔ではたいた。
くすくす、と青樹が笑う。
「お二人とも、おもしろいですね。ぜひ、頼らせてください」
人懐っこい笑顔。
「は、はいっ」
安藤は張り切って答えた。

「でね、光ちゃんは昨日からうちに泊まってもらってるんだけど」
「てかお前、客に料理作らすなよ」
「あ、いいんです。ただで泊まらせてもらってるんだし・・・」
作ったばかりの味噌汁のいい匂い。
ごはんが湯気をたてている。
安藤が、ふと疑問を口にする。
「あ、あの、青樹さんて年いくつくらいなんですか?」
「17ですよ。高校生です」
青樹は微笑む。
「光ちゃん。おうちどの辺?」
「第3地区です」
第3地区。
ひよこたちの家は第7地区。いくらギロチンが小さな国でも、さすがに結構遠い。
それに、第3地区といえば、どちらかというと裕福な家庭が多い。荒れた第7地区に第3地区の高校生、それも女の子が一人で来るということはほとんどない。
「あー、あの、大丈夫なんですか。親御さんとか、心配するんじゃ・・・」
「ああ」
青樹はそこでさっきまでの穏やかな表情から、冷たい笑顔にかわる。
「大丈夫なんですよ」
断言。
”親御さん”は、私の心配なんてしないから。
安藤にはそう聞こえた。
ああ、家庭事情に深入りするもんじゃねえな。
安藤は思う。
この少女にも、なんらかの事情があるんだろう。
めずらしいことじゃない。この国では。
深入り禁物。
俺たちは、目先のことだけ気にしてればいい。

ひよこもそう思ったのかはわからないが、その話にはたいして触れることなく、話を変えた。
「そういえば、まだあんまり依頼について詳しくきいてなかったねー」
「そうですね。昨日は、遊んじゃいましたもんね」
あはは、と二人は笑う。
なぁにやってんだ、と安藤はため息をついた。

「この人を、調べて欲しいんですけど」
一枚の写真を取り出す。
さらりとした黒い髪。
誠実そうな目。
いかにも好青年といった・・・
「ああああああー!!!」
安藤が叫ぶ。
「・・・っなんだよ、うるさいなー」
「ああ、あああ・・・こいつ・・・」
安藤は写真を持ってぶるぶる震える。
「・・・お知り合い、ですか?」
青樹が期待したように聞く。
「あ、いや、そういうわけでも、ないんだけど・・・」
「この人をどうして調べてほしいんだい?」
ひよこが聞く。
青樹は答えない。
・・・代わりに、恥ずかしそうに頬を染めて、目を伏せて・・・
それを見た安藤は発狂したように泣き叫ぶ。
「うわああああっなんで、いっつも、こいつなんだよおぉ」
ちっ違うんですよ!と青樹があわてて否定をする。
そんな反応に、ますます傷つく安藤。
「安藤はうるさいなー」
ひよこはやれやれ、と首を振り、写真を手に取る。

「今回は恋愛相談なのかなぁ?」
首をかしげる。
僕はむいてないと思うんだけど、とさして心配もしてなさそうにつぶやいた。

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あきゅろす。
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