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短編集・読み切り



「だから力抜いてなよ、センセ。

 俺はセンセイのココがどうなろうと構わ

 ないけど、センセイは困るデショ?」


 からかうような声が降ってくる。

 しかし軽い口調ながら刃のような凶器を

秘めたようなその声は、目的の為ならば手

段を選ばない空気を帯びていた。

 これ以上刺激したくないのなら、ひとま

ずは彼の言う通りにするしかない。

 唯一の希望は朧気ながら彼が何者である

のかを思い出しかけていることだ。

 今は刺激せずになるべく情報を引き出し

ながら時間稼ぎをするしかない。


「力を抜いたら、抜いてくれるんだな?」

「うん、充分解れたらね」


 解して…どうするのか。

 否、そんなことは考えなくていい。

 どうせ碌なことは考えていないのだろう

から。

 強張る体はなかなかいうことを聞きそう

になかったが、それでもできるだけ深く吐

息を吐き出そうとした。

 少しでも締め付けが緩むと無遠慮に奥ま

で突っ込まれた圧迫感がさらにその穴を拡

げようと中でバラバラに動き、それが生々

しく人の指なのだと再認識させられた。

 自分ですら触れたことのない場所を誰と

も知れぬ他人に暴かれ、いいように弄ばれ

ているという事実は拘束されているという

事実をもってしても受け入れ難い。

 精神的な嘔吐感を伴う行為から1秒でも

早く解放されたいのに取り留めなく零れ落

ちていく思考は焦燥感を煽るだけで具体的

にどうすればいいのか解決方法を導き出し

てはくれない。


 落ち着け。

 話の主導権は話し手ではなく聞き手が握

っている。


 念仏のように心の中で繰り返し唱えると

気休め程度の効果はあったようだ。


「こんな事をして、楽しいかっ?」


 ひんやりとした液体が肌を撫でて語尾が

上擦る。

 更にぬめりを得た指先はそれを縁に塗り

つけながら好き勝手に動く。

 それを体外へ押し出してしまいたい欲求

に耐えながらひきつる喉から吐息を逃がし

た。


「楽しいよ?

 センセのそういう顔見たかったし」


 この行為が目的を達成するための手段の

一つであるのなら別の事で代わりができた

かもしれない。

 もしかしたらそれに移行するに隙も生ま

れたかもしれない。

 しかし楽しいという答えならば手段を変

更させることは容易ではないかもしれない。

 こんな行為の何が楽しいのかは理解不能

だが。


「もっと、他に何かないのかっ?

 何もこんなことしなくてもっ…」

「百聞は一見にしかずって言うじゃん?

 頭の中でゴチャゴチャ考えるより体験し

 てみるのが一番解ると思うんだよね。

 解りもしないくせに解ったフリされんの

 一番嫌いだから、俺」


 なにか重要な事を言っているような気が

するのに、何を言っているのかうまく頭の

中に入ってこない。

 今も指をでたらめに動かしている何者か

は、こういう行為を経験したことがあるの

だろうか。

 しかもどうやら私に対して憤りのような

侮蔑のような感情を滲ませている。

 何か私が気に障るような言動をした過去

でもあるかのようだ。





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